中国に動物保護に関する法律がまったく存在しないわけではない。問題は、法律によって保護される動物の範囲が限定されており、家庭で飼われる犬や猫を虐待から守る制度が十分に整備されていないことだ。
2009年から続く動物保護法制定の動き中国では2009年、動物保護に関する専門家草案が公表された。中国社会科学院の研究者らが中心となり、野生動物、家畜、実験動物、伴侶動物などを対象とした包括的な保護制度を提案したものだ。
この草案は正式な法律として国会審議を経た法案ではなく、専門家による立法提案だった。その後、2010年には内容を絞り込んだ「動物虐待防止法」の専門家草案も提出されたが、全国的な立法にはつながらなかった。
当初の提案には、動物虐待の禁止だけでなく、遺棄の防止や虐待映像の流通規制なども含まれていた。しかし、経済的な実現可能性や社会的合意の不足などが議論となり、成立には至っていない。
2024~2026年の立法をめぐる動きその後も全国人民代表大会の代表らによる提案は続いている。
2024年には、60人の代表が伴侶動物の虐待防止に関する2つの提案を提出した。全国人民代表大会の農業農村委員会は、地域ごとの経済状況や文化的な違いを考慮し、地方での制度整備を進める考えを示した。
2025年3月には、全国人民代表大会代表を務める趙万平氏が、31人の代表とともに「伴侶動物保護管理法」の制定を提案した。提案では、既存の法律が分散していることが、虐待や遺棄、違法取引を防ぐうえでの問題として指摘された。
加えて、2025年末に司法部が2026年の立法計画について意見を募集した際、動物虐待禁止法を求めるネットユーザー主催のオンライン投票では、賛成が410万票以上に達したとCNAが報じている。ただし、これは公的な世論調査ではなく、オンライン上の賛同を集めた活動である。
2026年5月11日に公表された全国人民代表大会常務委員会と国務院の立法計画にも、動物虐待禁止法や伴侶動物の保護に特化した全国法は盛り込まれなかった。
2026年3月、福建省三明市の条例案も撤回地方自治体による新しい試みとして注目されたのが、福建省三明市の動きだ。
2026年3月、同市は猫と犬を「伴侶動物」と位置づけ、虐待や遺棄を禁止する地方条例案を公表した。野良猫については、捕獲・不妊去勢・ワクチン接種・元の場所への返還を組み合わせた管理方式も提案された。
しかし、条例案は意見募集期間が終了する前に、公式サイトから取り下げられた。地方当局から撤回の明確な説明はなく、上位法に根拠がないという批判が出ていたことも報じられている。
この事例は、自治体が動物保護を進めようとしても、全国法との整合性がなければ制度化が難しいことを示している。
なぜ立法が進まないのか?3つの構造的な理由動物虐待禁止法の成立が遅れている背景には、主に3つの問題がある。
1.畜産・動物関連産業との調整
動物保護の対象を広げると、畜産業、食肉産業、野生動物の繁殖事業、動物園、動物を利用する娯楽産業などにも影響する。飼育方法や輸送、処分方法に新しい基準を設ければ、事業者のコストも増える。経済活動との調整が必要になるため、立法に慎重な姿勢が生まれやすい。
2.地域による文化・経済状況の違い
都市部ではペットを家族の一員として扱う人が増えている一方、地域によって動物との関わり方や食文化、経済状況には違いがある。全国一律の規制を導入する際、どの動物を対象とし、どこまで飼育・利用を制限するのかという調整が難しい。
3.動物を権利の主体ではなく財産として扱う法体系
民法典ではペットも所有者の財産として扱われる。人間の生命や身体を保護する法律と同じように、動物自身の生命や苦痛を保護する仕組みが十分に確立されていない。
2026年3月に発表されたオックスフォード大学出版の法学研究誌『Journal of Environmental Law』掲載論文も、中国の動物保護制度が人間中心の法体系に組み込まれている点を分析している。環境保護や生物多様性、公衆衛生と結びつければ法的保護を実現しやすい一方、家庭で飼われる動物の苦痛そのものは制度の外に置かれやすいという問題がある。
【中国の犬肉取引】玉林の犬肉祭りは2026年も続いているのか?

中国の犬虐待問題を考えるうえで、犬肉取引の実態も避けて通れない。
特に国際的な注目を集めているのが、広西チワン族自治区玉林市で夏至の時期に行われてきた犬肉関連の販売イベントだ。ただし、犬肉を食べる習慣が中国全土に広がっているという理解は正確ではない。
玉林の犬肉祭りは伝統的な公認行事なのかいわゆる「玉林犬肉祭り」は、2010年に地元の犬肉業者らが販売促進を目的に始めたイベントとされる。古くから中国全土で受け継がれてきた伝統行事というわけではなく、政府公認の全国的な文化祭でもない。
動物保護団体のHumane World for Animalsによれば、イベントとしての形式は数年前から縮小・変化しているものの、夏至前後の犬肉販売や食肉処理は続いている。
2017年には玉林当局が犬肉販売の禁止を業者に伝えたものの、業者側の反発を受けて撤回された経緯もある。現在も市場や飲食店での取引が問題視されている。
犬肉取引の規模と2026年の変化犬肉取引の規模については、全国を対象とした政府の公式統計が存在しない。
Humane World for Animalsは、中国国内で年間約1,000万頭の犬と400万頭の猫が食肉として殺されていると推計している。ただし、これは同団体による推計であり、政府が公表した確定統計ではない。
玉林については、同団体が犬の死体の販売数を年間3,000~5,000頭程度と推定している。2010年代前半と比べて取引規模が縮小したとする報告もある。
2026年6月には、玉林近郊の犬肉処理施設が閉鎖された。6月7日、動物保護団体との合意に基づいて、15,000頭以上の犬を処理してきた施設の営業が終了したと報じられている。
同時期には、食肉処理施設から救出された犬11頭が北京の保護施設に移送された。しかし、約30時間の移動中に2頭が死亡し、残る9頭も健康診断や感染症検査、治療を必要としていた。
こうした救出活動は、犬肉取引の問題が単なる食文化の違いではなく、動物の輸送、飼育環境、健康管理、盗難ペットの流通などにも関係していることを示している。
中国では犬肉を食べることが全国的に禁止されているのか答えは全国一律の禁止ではない。
ただし、2020年には中国農業農村部が犬を従来の家畜とは異なる伴侶動物として位置づけ、犬を国家の家畜・家禽遺伝資源目録から除外した。これにより、犬を通常の食用家畜と同じ制度で扱うことはできなくなった。
一方、犬肉の消費そのものを全国一律に禁止する法律が成立したわけではない。この違いは非常に重要だ。犬が伴侶動物と位置づけられたことと、国内すべての地域で犬肉取引が禁止されたことは同義ではない。
深圳・珠海では犬猫肉の販売や消費を禁止地方自治体では、全国法よりも踏み込んだ規制を導入している地域がある。
深圳市は2020年5月1日から「深圳経済特区全面禁止食用野生動物条例」を施行した。同条例は食用可能な動物を限定する方式を採用し、犬と猫を食用可能な動物の対象から除外している。
2026年8月にも深圳市市場監督管理局は、犬が国家の家畜・家禽遺伝資源目録に含まれないことを理由に、市内の飲食店や精肉販売店で犬肉を取り扱うことはできないと説明した。
珠海市でも2020年に犬猫肉の消費を禁止する条例が施行されている。
つまり、犬肉の扱いは中国全土で一律ではなく、地方条例によって規制の強さが異なる。
犬肉文化をめぐる中国国内の世論は変わったのか注目すべきなのは、中国国内でも犬肉を日常的に食べない人が多数派となっていることだ。
Humane World for Animalsの現地パートナー団体Vshineが2025年5月に玉林市の住民を対象に実施した調査では、回答者の87.5%が犬肉・猫肉をまったく食べない、またはほとんど食べないと回答した。また、88%は犬猫肉取引が禁止されても自分の生活に影響はないと答えた。
これは玉林市の調査であり、中国全土の意識を代表する統計ではない。それでも、犬肉文化が地域住民全体の生活に深く根付いているというイメージを見直す材料にはなる。
CNAが2026年6月に報じた北京住民への取材でも、犬を家族の一員として飼育する人々から、犬肉を受け入れられないという意見が紹介された。
犬肉をめぐる議論は、伝統文化を守るか否かという単純な対立ではなく、ペットの普及、衛生管理、違法な盗難・流通への懸念、動物への価値観の変化が重なった問題になっている。
【中国で犬虐待を通報する方法】警察への届け出と動画販売問題
中国国内で犬虐待やペットの盗難を発見した場合、動物虐待を直接禁止する全国法がないからといって、通報する意味がないわけではない。
実際には、動物に対する行為がどのような違法行為に該当するかを整理し、証拠を確保することが重要になる。
犬虐待を発見した場合の通報先緊急性のある虐待や、動物が現在も危険にさらされている場合は、現地の公安機関に通報する。中国国内の警察への緊急通報番号は110だ。
通報時には、次の情報を整理しておくとよい。
- 虐待が起きた日時と具体的な場所
- 虐待を行った人物の特徴や、分かる範囲での身元情報
- 動画、写真、監視カメラ映像などの原本
- 現場を目撃した人の情報や証言
- 動物病院の診断書、治療記録、費用の領収書
- ペットの購入記録、登録情報、ワクチン接種記録などの所有証明
特に、動画や写真は加工・編集前の原本を保存することが重要だ。SNSに投稿された映像であれば、投稿者名、アカウント情報、投稿日時、該当する画面の記録も保管する。
ペットの盗難については、犬の写真だけでなく、購入証明書や登録記録、動物病院のカルテなども所有関係や価値を示す資料になる。
通報後は、受理されたかどうかを確認し、可能であれば受理通知や事件番号などの記録を残しておく。警察が虐待そのものを処罰できるか、窃盗や財産損壊など別の違法行為として処理するかは、個別の事実関係と証拠によって異なる。
民法典ではペット盗難の損害賠償を請求できる中国の民法典は、ペットの所有者が盗難や故意の損壊によって受けた財産的損失について、賠償を求めるための根拠を定めている。
特に関係するのが、次の2つの条文だ。
第1184条:財産損失の算定
他人の財産を侵害した場合、損害額は損害発生時の市場価格、またはその他の合理的な方法によって算定する。
チュートウ事件では、警察が犬の財産価値を2,300元と評価した。SNSのフォロワー数や商業的な影響力、飼い主の思い入れなどは、この評価額には含まれなかったと報じられている。
第1183条:精神的損害に対する賠償
故意または重大な過失によって、人間にとって特別な意味を持つ物を侵害し、重大な精神的損害を生じさせた場合、精神的損害賠償を請求できる規定がある。
長年飼育したペットについても、この条文が適用される可能性はある。ただし、犬を盗まれたり殺されたりした場合に、必ず精神的損害賠償が認められるわけではない。対象となる動物との関係や損害の程度、証拠などを踏まえた司法判断が必要になる。
ペットの命を市場価格だけで評価することへの不満が生まれるのは、この法的な扱いと飼い主の実感との間に大きな隔たりがあるためだ。
犬猫虐待動画の販売という新たな問題動物虐待問題は、実際の虐待行為だけではなく、その様子を撮影して販売する行為にも広がっている。
2025年1月22日、法治日報の記者による調査を央広網が報じた。記者はSNS上の交流グループを調査し、犬猫などの虐待映像が有料で販売される実態を確認した。
報道によると、動画の価格は数元から100元以上に及び、購入した利用者が同じグループ内で再共有するケースもあった。動物を入手し、虐待して撮影し、映像を販売するという流れが確認されたという。
加えて、流通経路には流浪動物だけでなく、個人から引き取られたペットや盗難された動物が含まれる可能性も指摘された。調査対象のグループは、愛犬家からの通報を受けてプラットフォーム側が閉鎖した。
同報道では、弁護士が「ネットワーク上の公演活動管理」に関する規定を挙げ、動物虐待を伴うパフォーマンスを禁止する制度に触れている。ただし、私的なグループ内で販売されるすべての虐待映像が、同じ規定だけで一律に処罰できるという意味ではない。
虐待行為、映像の制作、販売、違法な動物の入手、危険物の使用など、それぞれの行為に応じた法的な判断が必要となる。
インターネット上の虐待動画はどこに通報する?オンラインで虐待動画の販売や拡散を発見した場合は、掲載されているプラットフォームへの通報に加え、中国の中央インターネット情報弁公室が運営する違法・有害情報通報センターも利用できる。
通報窓口は12377。公式の通報案内では、問題のある情報を特定できる情報やスクリーンショット、関連する証拠資料を提出するよう求めている。
ただし、12377はインターネット上の違法・有害情報を対象とする窓口であり、動物虐待事件の刑事捜査を直接担当する機関ではない。現実の虐待行為については公安機関への通報も必要になる。
虐待映像を再投稿したり、刺激的な内容を拡散したりすることは、加害者の収益や閲覧数を増やす可能性もある。証拠を保存したうえで、適切な窓口に通報することが望ましい。
【中国の犬虐待】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:中国では犬を虐待すると犯罪になりますか?
A1:犬虐待そのものを全国一律に禁止する独立した法律は、2026年11月3日時点で成立していない。ただし、他人の犬を傷つけた場合は財産損壊、盗んだ場合は窃盗、危険物を使用した場合は公共の安全に関する犯罪など、行為に応じた処罰を受ける可能性がある。
Q2:2026年の治安管理処罰法改正で犬虐待は禁止されましたか?
A2:禁止されていない。第89条は動物による迷惑行為、危険な動物の飼育、安全措置の不履行などを規制する条文であり、あらゆる犬虐待を直接処罰する規定ではない。2026年1月1日に施行されたことと、動物虐待禁止法が成立したことは別の問題だ。
Q3:河南省のチュートウ事件はどうなりましたか?
A3:2026年6月6日に刑事立件され、7月には窃盗容疑で検察院に移送された。10月30日には飼い主の郭氏が30万元の和解を受け入れ、宥恕の手続きを行った。受け取った金額は動物保護団体に寄付する意向を示している。10月31日時点では検察院の審査が続いており、公訴の有無は確定していなかった。
まとめ:中国の犬虐待問題は2026年に解決へ向かうのか
2026年の中国では、重慶の里親を装った虐待事件、河南省のチュートウ盗難・食肉事件、玉林の犬肉取引をめぐる問題が相次ぎ、動物保護制度の不足が改めて明らかになった。
治安管理処罰法の改正によって動物の飼育に関する規制は強化されたものの、犬や猫への虐待を直接禁止する全国法は成立していない。現行制度では、虐待行為そのものではなく、財産損壊や窃盗、公共の安全を脅かす行為などを根拠として対応するケースがある。
また、民法典によるペットの財産的保護は、盗難や損害に対する賠償を可能にする一方、飼い主が感じる精神的な損失や、動物自身が受けた苦痛を十分に評価できるとは限らない。
地方自治体による条例制定、動物保護団体の救済活動、SNSを通じた市民の問題提起は進んでいる。しかし、全国法がなければ地域ごとの保護水準に差が残り、虐待を防ぐ制度としても限界がある。
【プロの結論】
中国の犬虐待問題を理解するために重要なのは、「中国では犬虐待をしても罰せられない」という単純な見方を避けることだ。実際には、窃盗や財産損壊、公共安全に関する法律を通じて処罰された事例がある。問題は、動物を傷つけた行為そのものを、動物の生命や苦痛に基づいて評価する全国的な法制度が不足していることにある。
今後の制度改革を評価する際には、次の3点が判断基準になる。
- 虐待行為の明確な定義:殴打、虐殺、遺棄、虐待映像の制作・販売などを法律で具体的に規定できるか。
- 実効性のある処罰:罰金や行政拘留だけでなく、悪質な虐待に対する刑事責任や再発防止措置を整備できるか。
- 動物の生命と福祉の保護:ペットを所有者の財産としてだけでなく、苦痛を感じる生き物として法制度に位置づけられるか。
チュートウ事件で飼い主が受け取った30万元の和解金も、失われた命を取り戻すものではない。重慶の事件で保護された子犬たちも、法律の不足によって危険にさらされた動物たちの一部にすぎない。
2026年11月現在、中国の動物保護は転換点を迎えている。今後、全国的な伴侶動物保護法が制定され、虐待を防止する明確な基準と実効性のある罰則が整備されるかどうかが、犬や猫を取り巻く環境を大きく左右することになる。