最初に押さえておきたいのは、「指スマ」は広く知られた呼び名ではあるものの、全国共通の正式名称として定められたものではないという点です。
この問題について参考になるのが、日本大学大学院の『国文学専攻論集』第19号(2023年2月発行)に掲載された峰島大貴氏の論文「千葉県下総・上総生育若年層の遊びの言葉―アンケート調査から―」です。
同論文では、「いっせーのーせ」も正式名称ではなく、複数ある呼び方の一例として扱われています。遊びの言葉を収録した事典類にも、このゲームの名称が明確に掲載されていなかったことが紹介されています。
つまり、「指スマ」と呼ぶ人も「いっせーのーせ」と呼ぶ人も、基本的には同じ遊びを指しています。どちらか一方が間違いというわけではありません。
「指スマ」と「いっせーのーせ」は何が違う?両者の違いを理解するには、ゲームの名称と掛け声を分けて考えると分かりやすくなります。
- 指スマ:ゲームそのものを指す呼び名として広く使われる。
- いっせーのーせ:数字を宣言する前に使うタイミング合わせの掛け声。
- いっせーので:同じく親指を上げるタイミングを合わせる掛け声。
- せっさん:地域によってゲーム名や掛け声として使われる呼称。
- バリチッチ:チッチ系の掛け声を使う地域で知られるバリエーション。
実際にはゲーム名と掛け声を同じ言葉で呼ぶケースも多く、明確な境界線があるわけではありません。
「指スマをやろう」と誘う人もいれば、「いっせーのーせしよう」と誘う人もいます。言葉が違っても、親指の本数を予想する基本的な遊び方が同じなら、同じ系統のゲームです。
【由来を検証】指スマはSMAP×SMAPから生まれたゲームなのか?

「指スマ」という名前を語るうえで欠かせないのが、フジテレビのバラエティ番組『SMAP×SMAP』です。
同番組は1996年に放送を開始。SMAPのメンバーが出演する人気番組として知られ、料理企画やコント、音楽企画など幅広い内容を展開しました。
番組内でも親指の本数を当てる遊びが行われており、大阪商業大学アミューズメント産業研究所の高橋浩徳研究員は、指を使うゲームをSMAP×SMAPで行うことから「指スマ」という名前が考えられたのではないかと説明しています。
1998年の「指-スマGrand Prix」が広まるきっかけにボードゲーム専門メディアBROADの2020年の記事では、番組内で1998年から行われていた企画として「指-スマGrand Prix」が紹介されています。
番組で使われた「指スマ」という名称が視聴者に伝わり、学校や友人同士の遊びにも浸透していったと考えられます。テレビという全国規模のメディアが、地域によって異なっていた呼び名を広く共有させた事例です。
ただし、ここで区別したいのが、名前が広まった時期とゲームが生まれた時期は別ということです。
親指を使って相手の出した指の数を当てる遊びは、SMAP×SMAPの放送開始以前から存在していました。番組が生み出したのは、現在広く知られる「指スマ」という呼び名の普及に大きく関係した部分です。
指スマのルーツは江戸時代の本拳?遊びそのものの歴史については、さらに古い可能性があります。
2023年7月29日付のTBS NEWS DIG(山陰放送)の取材では、大阪商業大学アミューズメント産業研究所の高橋浩徳研究員が、現在の親指ゲームの起源として「本拳」の可能性を挙げています。
本拳は、互いに指を出し、その合計数を言い当てる遊びです。中国から伝わったと考えられており、江戸時代の庶民向け小説『傾城真之心』の挿絵にも、本拳を楽しむ人々の姿が描かれていると紹介されています。
ただし、江戸時代の本拳と、現在の子どもたちが遊ぶ指スマは、ルールや手の使い方に違いがあります。完全に同一の遊びがそのまま伝承されたと断定することはできません。
現在の指スマは、古くからある指を使った数当て遊びと共通する特徴を持ちながら、地域や世代ごとに形を変えてきた遊びと捉えると理解しやすくなります。
【地域別の呼び方一覧】いっせーのーせ・せっさん・バリチッチの違い
指スマの面白さは、同じ遊びなのに地域によって呼び方が大きく異なることです。
よく知られるのは、関東で使われることが多い「いっせーのーせ」と、関西で使われることが多い「いっせーので」。ただし、都道府県単位で完全に分かれているわけではなく、同じ地域でも学校や家庭によって違いがあります。
これまでの報道や研究、遊び方の紹介記事で確認できる代表的な呼び方を整理すると、次のようになります。
参考:TBS NEWS DIG、BROAD、日本大学大学院『国文学専攻論集』第19号、くふうロコの調査・紹介記事。
関東と関西では掛け声が違う?一般的な地域差として紹介されるのが、関東の「いっせーのーせ」と関西の「いっせーので」です。
どちらも、全員が親指を上げるタイミングをそろえるための言葉です。「いっせーのーせ」は一斉に動くための合図として自然な響きを持ち、「いっせーので」も同じ役割を果たします。
くふうロコが2025年10月に公開した指スマの解説記事でも、この関東・関西の傾向が紹介されています。ただし、全国規模の統計調査によって各地域の使用率が確定しているわけではありません。
「せっさん」はどこの地域で使われる?「せっさん」は、ほかの呼び方に比べて耳慣れない人もいる言葉です。
BROADの記事では、山梨県や静岡県の呼び方の一つとして紹介されています。一方、日本大学大学院の調査でも、千葉県鎌ケ谷市で育った回答者から「セッサン」という回答が得られています。
このことからも、特定の県だけに限定された呼称と考えるのは適切ではありません。地域の境界と実際の言葉の使用範囲は、必ずしも一致しないのです。
バリチッチ・チッチーノは別のゲーム?「バリチッチ」や「チッチーノ」も、親指ゲームの呼び方として紹介される言葉です。
特に印象的なのが、「チッチッチッチ・バリチッチ」という長い掛け声です。短い「いっせーのーせ」とは違い、リズムのある言葉を繰り返してタイミングを合わせます。
TBS NEWS DIGの2023年の取材では、長崎県出身者が「ちっちっちっちまるちっち」という掛け声を紹介していました。チッチ系の言葉が一種類ではなく、地域やコミュニティごとに変化していることが分かります。
なお、「バリチッチ」と「チッチーノ」の正確な発祥地や、両者の歴史的な関係を裏付ける全国的な記録は確認できません。呼び方の響きが似ているからといって、すべて同じ由来とは限らない点にも注意が必要です。
【指スマのルールを解説】親指の数を当てる遊び方と勝敗の決め方
指スマは、特別な道具を必要とせず、2人以上いれば楽しめるシンプルなゲームです。基本的なルールを覚えておけば、呼び方が違う相手ともすぐに遊べます。
基本ルールは5つのステップ
参加者が両手を握る
全員が両手をグーにして、親指を上に向けた状態で向かい合うか、輪になって座ります。
掛け声と予想する数字を宣言する
順番が来た人が「指スマ、2!」や「いっせーのーせ、2!」などと宣言します。
全員が親指を同時に上げる
掛け声に合わせて、各自が左右の親指を上げるか、上げないかを選択します。
上がった親指の合計を確認する
宣言した数字と実際に上がった親指の数が一致すれば成功です。
成功した人は片手を下ろす
もう一度成功して両手を下ろせたら勝ち抜けです。順番に繰り返して勝敗を決めます。
基本ルールでは、宣言した人自身の親指も合計に含めます。自分が親指を上げるかどうかも、予想に関わる要点です。
人数によって予想できる数字は変わる参加人数が増えると、立てられる親指の最大数も増えます。1人につき親指を2本使う基本形なら、予想できる数字は次のとおりです。
| 参加人数 | 親指の最大数 | 予想できる数字 |
|---|---|---|
| 2人 | 4本 | 0〜4 |
| 3人 | 6本 | 0〜6 |
| 4人 | 8本 | 0〜8 |
| 5人 | 10本 | 0〜10 |
例えば3人で遊ぶ場合、全員が両方の親指を上げれば合計6本です。誰も上げなければ0本になります。
参加人数が増えるほど予想の幅が広がり、相手の癖や行動パターンを読む心理戦の要素も強くなります。
地域によってルールも違う?基本的な仕組みは共通していますが、細かな勝敗の決め方には違いがあります。
- 1回正解するごとに片手を下ろす。
- 両手を下ろした人から順番に勝ち抜ける。
- 最後まで残った人を負けとする。
- 片手だけを使って短時間で勝敗を決める。
『SMAP×SMAP』の指スマ企画でも、正解すると片手を下ろし、2回正解して両手を下ろした人が勝ち抜ける方式が紹介されています。
そのため、遊び始める前に「何回当てたら勝ちなのか」「勝ち抜け方式なのか」を決めておくと、ルールの食い違いを防げます。
【地域差が生まれた理由】世代や学校によって呼び方が違うのはなぜ?
同じ日本語を使っていても、子どもの頃に覚えた遊びの名前は地域によって変わります。指スマの呼び方が多様なのは、遊びが家庭や学校などの小さなコミュニティを通じて伝わってきたためです。
口伝えで広がる遊びには統一ルールがない大阪商業大学の高橋浩徳研究員は、TBS NEWS DIGの取材で、昔の遊びは新聞や雑誌、テレビ、ラジオなどによる情報伝達が限られていたため、地域ごとに異なる名前が生まれやすかったと説明しています。
学校の休み時間に友人から教わり、家に帰って兄弟と遊び、次の日には別の友人に教える。こうした伝わり方では、正式な名称や掛け声が決まる必要はありません。
誰かが「せっさん」と言えば、その集団では「せっさん」が当たり前になります。別の学校で「チッチーノ」と教わった人にとっては、そちらが自然な名前です。
同じ県の中でも呼び方が違うことがある地域差を考えるうえで興味深いのが、千葉県内の呼び方です。
日本大学大学院の峰島大貴氏による論文では、千葉県の若年層42人を対象に遊びの言葉について調査しています。指スマの名称については、複数回答を認めた調査で「ユビスマ」が19人、「イッセツセ」が11人、「イッセーノーセ」が10人、「イッセー」が8人という結果でした。
これらは全国の使用率ではなく、千葉県内の限られた回答者による結果です。それでも、同じ県の中に複数の呼び方が共存していることを示す資料になります。
加えて、2019年4月15日放送の日本テレビ系『月曜から夜ふかし』で紹介された千葉県内の掛け声の違いも、同論文で取り上げられています。
例えば、千葉市内では次のような呼び方が紹介されています。
- 稲毛区:チュンチュン
- 花見川区:チッチ
- 若葉区:チョムチョム
- 中央区:ピッピ
- 緑区:チュンチョン
- 美浜区:チョメチョメ
同じ市内でも、区によって言葉が異なるという興味深い事例です。
世代によっても記憶している名前が異なる地域差に加えて、世代による違いも見逃せません。
1990年代後半から2000年代に子ども時代を過ごした人の中には、『SMAP×SMAP』をきっかけに「指スマ」を覚えた人がいます。一方、それ以前から学校や地域で遊んでいた世代には、別の掛け声が記憶に残っている場合があります。
また、テレビやインターネットを通じて全国の呼び方を知る機会が増えたことで、以前は地域内だけで通じていた名称が、ほかの地域の人にも知られるようになりました。
ただし、メディアで一つの呼び方が広がったからといって、地域独自の呼称が完全に消えるわけではありません。子どもの頃に身につけた言葉は、思い出と結び付いて長く残りやすいものです。
【プロの結論】指スマの呼び方に正解はある?知っておきたい3つのポイント
指スマの呼び方をめぐる疑問を整理すると、重要なのは「名前」「掛け声」「遊びの歴史」を混同しないことです。
1.全国共通の正式名称があると思い込まない「指スマ」が広く知られていることと、それが唯一の正式名称であることは別問題です。「いっせーのーせ」も「いっせーので」も、地域で使われてきた自然な呼び方です。
友人や家族と遊ぶ場合は、相手が慣れている呼び方を使えば十分です。違う呼び方を聞いたときも、間違いとして否定する必要はありません。
2.SMAP×SMAPが遊びそのものを発明したわけではない『SMAP×SMAP』は「指スマ」という呼称の普及に関係した重要な存在です。しかし、遊び自体には本拳などの古い指を使った数当て遊びとのつながりが指摘されています。
したがって、「SMAPが指スマを発明した」という説明よりも、「以前からあった遊びの呼び名が番組を通じて広まった」という理解が適切です。
3.地域差を調べるときは育った場所を基準にする出身県だけで呼び方を判断するのは難しい場合があります。千葉市内のように、同じ市でも異なる呼び方が存在する事例があるからです。
地域の呼称を比較するときは、出身地だけでなく、小学生・中学生の頃にどこで過ごしたか、どの学校で遊んでいたかも重要な手掛かりになります。
2026年時点でも、全国の全地域・全世代を対象にした統一的な呼称ランキングは確認できません。特定の呼び方を全国1位と断定するより、個別の調査対象や地域を確認して比較することが大切です。
指スマの呼び方に関するよくある質問(FAQ)
Q1:指スマの正式名称は何ですか?
A1:全国共通の公的な正式名称は定まっていません。「指スマ」「いっせーのーせ」「いっせーので」などが使われています。指スマは『SMAP×SMAP』を通じて広まった呼び名として知られています。
Q2:指スマはSMAP×SMAPが発祥ですか?
A2:ゲームそのものの発祥ではありません。『SMAP×SMAP』で取り上げられたことで「指スマ」という名前が広まったとされています。遊びのルーツには、江戸時代の資料に見られる本拳との関連が指摘されています。
Q3:指スマといっせーのーせは別のゲームですか?
A3:基本的には同じ親指の数当てゲームを指します。名称や掛け声が違っていても、親指を同時に上げ、その合計数を当てる仕組みは共通しています。
Q4:せっさんはどこの地域の呼び方ですか?
A4:山梨県や静岡県などの使用例が紹介されています。また、千葉県鎌ケ谷市で育った人の回答にも登場しており、特定の県だけに限定される言葉ではありません。
Q5:バリチッチとチッチーノは同じ遊びですか?
A5:どちらも親指の数を当てる遊びの呼び方として紹介されています。ただし、掛け声や細かなルールには地域差があるため、実際に遊ぶ際は相手とルールを確認すると安心です。
Q6:指スマは何人から遊べますか?
A6:基本的には2人以上で遊べます。2人なら親指の最大数は4本、3人なら6本です。参加者が多くなるほど予想できる数字の範囲が広がります。
まとめ:指スマの呼び方は地域の思い出を映す遊び文化
指スマの呼び方には、「いっせーのーせ」「いっせーので」「せっさん」「バリチッチ」「チッチーノ」など、多彩なバリエーションがあります。
「指スマ」という名前は、フジテレビの『SMAP×SMAP』で取り上げられたことをきっかけに広く知られるようになりました。しかし、親指の数を当てる遊びそのものはそれ以前から存在し、本拳などの伝統的な指遊びとの関連も指摘されています。
また、日本大学大学院の研究やTBS NEWS DIGの取材からは、同じ県や市の中でも呼び方が異なることが分かります。全国共通の正式名称を探すよりも、地域や世代ごとの違いを楽しむことが、この遊びの魅力です。
2026年現在も、子どもの頃に覚えた掛け声は人それぞれ。次に友人や家族と指スマをするときには、「小学生の頃は何て呼んでいた?」と聞いてみてください。思いがけない地域差や懐かしい記憶が見つかる可能性があります。