父親が判明したのは、2023年1月30日。森きららが公表した「シロテテナガザル『モモ』の仔の遺伝子学的調査結果について」という発表が、長年の謎に答えを出しました。
鑑定によって父親と確定したのは、隣接する飼育スペースにいたアジルテナガザルのオス「イトウ」です。母親のモモは2010年7月30日生まれ、父親のイトウは1988年5月29日生まれ。2021年2月10日に誕生した子ザルはオスでした。
母親:モモ
シロテテナガザル・メス
- 生年月日:2010年7月30日
- 出産日:2021年2月10日
- 2026年7月時点:16歳
父親:イトウ
アジルテナガザル・オス
- 生年月日:1988年5月29日
- DNA型鑑定で父親と確定
- 2026年7月時点:38歳
子ども:テラ
アジルテナガザルとシロテテナガザルの交雑種・オス
- 生年月日:2021年2月10日
- 父親:イトウ
- 母親:モモ
- 2026年7月時点:5歳
鑑定に至るまでの経緯も興味深いものです。毎日新聞の2023年1月30日の報道によると、2022年秋、モモと子ザル、さらに父親候補となるオス4頭から体毛や大便を採取。京都大学の研究者に遺伝子学的な鑑定を依頼しました。
複数の候補がいた中で、子ザルのDNAと一致した父親がイトウだったのです。つまり、イトウが父親であることは単なる外見や行動からの推測ではなく、遺伝子学的な検査によって裏付けられています。
【妊娠の謎】単独飼育だったモモが出産できた理由とは?

今回の出来事を理解するには、当時の飼育環境を知る必要があります。
モモとイトウは、それぞれ別の飼育スペースで生活していました。展示場では午前と午後で交代して展示されていたため、2頭が同じ展示場で一緒に過ごすことはありませんでした。
それにもかかわらず、モモは2021年2月10日に出産。園側にとっても予想外の出来事でした。
鍵を握っていた直径約9ミリのパンチングボード調査で注目されたのが、展示場とバックヤードの間に設置されていた仕切りです。
当時の仕切りには、直径約9ミリの穴が規則的に並んだパンチングボードが使用されていました。2頭の飼育スペースを隔てていたものの、完全に穴のない壁ではなかったのです。
TBS NEWS DIGが2023年1月31日に報じた内容では、森きららの担当者は、2頭が接触できた可能性のある場所として、このパンチングボードが設置されていた扉を挙げています。
このことから、穴を介して交尾した可能性が考えられました。しかし、実際に交尾する瞬間が確認されたわけではありません。DNA鑑定で父親は判明しましたが、受精に至った具体的な状況までは解明されていないのです。
出産後、飼育施設はどう変わったのか森きららはモモの出産を受け、問題となったパンチングボードを穴のない鉄板に変更しました。
これは単なる設備交換ではありません。今回の出来事を踏まえ、動物同士の接触可能性を飼育施設の構造から見直した対応です。
動物園では、同じ展示場に入れていないからといって、必ずしも接触の可能性が完全になくなるわけではありません。バックヤードや寝室、仕切りの構造まで含めて管理する必要があることを示す事例となりました。
【テナガザルの交尾と交雑】異なる種類の間で子どもが生まれる仕組み
今回のニュースでは「シロテテナガザル」と「アジルテナガザル」という異なる種類のテナガザルから子どもが生まれたことも注目されました。
テナガザルは基本的にペアで生活する動物シロテテナガザルは、東南アジアの森林に生息するテナガザル科の霊長類です。長い腕を使って樹上を移動する能力に優れ、一般的にはオスとメスのペアと子どもからなる家族単位で暮らします。
繁殖についても、基本的にはペアの相手との交尾によって子孫を残します。ただし、社会的なペア関係と実際の繁殖相手が必ずしも完全に一致するわけではありません。
1995年に発表されたシロテテナガザルの研究では、タイの野生個体群において、ペアの相手以外との交尾も観察されています。研究対象となった3つの群れでは、観察された交尾のうち88%がペア内、12%がペア外でした。
さらに2013年の遺伝学的研究では、野生のシロテテナガザルの子どもの大部分が安定した社会的パートナーとの間に生まれていた一方、ペア外のオスが父親となった事例も確認されています。
こうした研究は、テナガザルの繁殖行動が単純な一夫一妻という枠だけでは説明できないことを示しています。ただし、野生の同種間の研究結果を、そのままモモとイトウのケースに当てはめることはできません。
シロテテナガザルとアジルテナガザルの違いシロテテナガザル
Hylobates lar
顔の周囲や手足の先が白いことが特徴。モモの種類。
アジルテナガザル
Hylobates agilis
顔の眉のような白い模様が特徴。イトウの種類。
森きららの動物紹介によると、アジルテナガザルは顔に眉のような白い模様があり、オスはあご部分の毛も白くなります。一方、シロテテナガザルは手足の先端などに白い毛があることが名前の由来です。
両者は同じテナガザル科に属していますが、異なる種類です。テラはその両者を親に持つため、動物園も「交雑種」として紹介しています。
なお、異なる種類のテナガザルの間で交雑が起きること自体は、学術研究でも報告されています。2022年に発表されたタイの野生テナガザルの研究では、シロテテナガザルとカンムリテナガザルの交雑や、その子孫による繁殖が遺伝子解析によって確認されました。
ただし、これは今回の親子とは異なる種の組み合わせを対象とした研究です。テラの繁殖能力や将来の遺伝的特徴については、今回の父子鑑定だけから判断できません。
【事件の発生から2026年まで】モモ・イトウ・テラの経緯を時系列で整理
今回の出来事は、出産から父親判明まで約2年、さらに親子3頭の同居に取り組むまで約5年半を要しています。主要な出来事を整理すると、次のとおりです。
この時系列で特に重要なのは、2023年の父親判明と2026年の同居開始は、それぞれ別の目的を持った出来事だという点です。
前者は遺伝的な親子関係を解明するための調査、後者はテナガザルの社会性を考慮した飼育環境の改善です。DNA鑑定で親子関係が明らかになったことが、そのまま同居につながったわけではなく、動物同士の相性を確認する段階的な取り組みが行われています。
【2026年最新】子ザルの名前はテラ!モモとの成長と現在の暮らし
父親が判明した子ザルは、その後「テラ」という名前で親しまれるようになりました。
名前の由来は長崎ゆかりのカステラ地元メディア「させぼ通信」の2023年7月12日の記事では、子ザルの名前がテラに決まったことが紹介されています。名前の由来は、長崎にゆかりの深いカステラです。
誕生当初は性別や名前も公表されていませんでしたが、2023年1月の遺伝子学的調査でオスであることが確定。その後、名前も決まりました。
2023年には推定体重約2キロまで成長森きららの2023年1月30日の発表によると、テラは母親のモモから愛情を受けながら順調に成長し、飼育員の目視確認で体重約2キロに達していました。
また、当時は母子の関係が良好だったため、園は引き続きモモとテラの2頭で飼育・展示する方針を示していました。
その後、2026年7月31日の公式発表では、テラは5歳のオスとして紹介されています。現在の詳細な体重などについては、同発表では公表されていません。
2026年の3頭の年齢と関係2026年現在、3頭は父親・母親・子どもという関係にあります。モモとテラは母子として暮らしてきましたが、父親のイトウも含めた生活環境には新しい変化が生まれています。
【2026年7月の最新ニュース】イトウ・モモ・テラの異種間同居がスタート
2026年の最も大きな動きは、父親のイトウと母子のモモ・テラが同じ空間で過ごす異種間同居への挑戦です。
九十九島動植物園森きららは、2026年3月にこの取り組みを始動。テナガザルが家族単位の群れで暮らす習性を持つことを踏まえ、動物福祉の向上を目的として進めています。
数か月間の網越しのお見合いを経て直接同居へ最初から3頭を一緒にしたわけではありません。
園は慎重に関係性を確認するため、数か月間にわたって網越しのお見合いを実施しました。お互いの姿や存在に慣れる時間を設け、大きなトラブルがないことを確認してから次の段階に進んでいます。
そして2026年7月、3頭が直接同じ空間で過ごす同居を本格化させました。
初期の同居では激しい争いは見られず森きららの7月31日の公式発表によると、同月に実施された2回の同居では、懸念されていた激しい闘争は確認されませんでした。
加えて、3頭の距離が少しずつ縮まり、モモとテラがイトウの毛づくろいをする様子も観察されています。
この行動は、3頭の間に社会的な関わりが生まれ始めていることを示す興味深い変化です。ただし、2回の同居で問題がなかったからといって、長期的な共同生活が完全に安定したと判断することはできません。
今後の課題は同居時間と一緒に食事をすること森きららが公表した今後の課題は、主に次の2点です。
- 同居時間の延長:3頭が安心して過ごせる時間を段階的に増やすこと。
- 複数頭での採食:同じ空間で食事をする際に、全個体が円滑に餌を食べられるようにすること。
特に採食は重要です。動物同士が同じ場所で過ごせても、食べ物をめぐって競争やストレスが生じる可能性があります。毛づくろいなどの友好的な行動だけでなく、食事中の関係性も慎重に観察する必要があります。
なお、森きららの動物紹介ページでは、イトウとモモ・テラの交互展示についても案内されています。展示スケジュールと、飼育管理上の同居試験は別の情報として理解しておくとよいでしょう。
異種間同居は動物福祉の観点で何を意味するのか今回の取り組みの本質は、血縁関係が判明した父親と子どもを再会させるという人間的な物語だけではありません。
テナガザルは社会的なつながりを持って生活する動物です。そのため、飼育環境でも個体の性格や相性、社会的な刺激を考慮することが大切です。
ただし、異なる種類の動物を一緒にすれば必ず福祉が向上するわけではありません。個体間の緊張、けが、餌の取り合い、休息場所の確保など、複数の要素を評価する必要があります。
森きららが網越しのお見合いから始め、直接同居へ段階的に移行したのは、こうしたリスクを抑えながら3頭の関係性を見極めるための取り組みと考えられます。
【よくある質問】テナガザル出産の父親判明に関するFAQ
Q1:テナガザルのモモが産んだ子どもの父親は誰ですか?
A1:長崎県佐世保市の森きららで飼育されていたアジルテナガザルのオス「イトウ」です。2023年1月30日に公表された遺伝子学的調査によって父親と確定しました。
Q2:直径9ミリの穴から本当に交尾したのですか?
A2:その可能性が指摘されています。当時の飼育スペースを隔てていたパンチングボードには直径約9ミリの穴があり、園側も接触できた可能性のある場所として挙げています。ただし、交尾の瞬間は確認されておらず、具体的な方法は確定していません。
Q3:子ザルの名前は何ですか?
A3:「テラ」です。2021年2月10日生まれのオスで、名前は長崎にゆかりのあるカステラにちなんで付けられたと地元メディアが報じています。
Q4:モモ、イトウ、テラは2026年現在一緒に暮らしていますか?
A4:森きららは2026年7月から3頭の直接同居を本格化させています。同月の2回の同居では激しい闘争が見られず、モモとテラがイトウの毛づくろいをする姿も確認されました。ただし、同居時間の延長や共同採食など、継続的な課題が残っています。
Q5:テラはシロテテナガザルですか、アジルテナガザルですか?
A5:どちらか一方の純粋な種類ではなく、シロテテナガザルのモモとアジルテナガルのイトウから生まれた交雑種です。森きららも公式に交雑種として紹介しています。
Q6:DNA鑑定はいつ、どのように行われましたか?
A6:2022年秋に母親のモモ、子ザル、父親候補のオス4頭から体毛や大便を採取し、遺伝子学的な調査が行われました。2023年1月30日にイトウが父親と確定したことが発表されました。
まとめ:モモの出産が明らかにした真相と2026年の新たな展開
九十九島動植物園森きららで起きたシロテテナガザルのモモの出産は、単独飼育という状況から大きな注目を集めました。
2023年1月のDNA型鑑定によって、父親は隣接する飼育スペースにいたアジルテナガザルのイトウと判明。直径約9ミリの穴があるパンチングボード越しに交尾した可能性が浮上しましたが、実際の経緯は現在も確定していません。
生まれた子ザルはテラと名付けられ、2026年7月時点で5歳に成長しています。そして同年7月、森きららはイトウ、モモ、テラの3頭による異種間同居を本格化させました。
今回の出来事には、3つの重要な意味があります。
- 遺伝学的な発見:DNA鑑定によって、見た目や飼育環境だけでは分からなかった親子関係が明らかになった。
- 飼育管理の改善:パンチングボードの交換を通じて、施設の構造と動物同士の接触管理が見直された。
- 動物福祉への挑戦:2026年から3頭の異種間同居を段階的に進め、新しい社会的関係の構築を目指している。
今後注目したいのは、3頭が一時的な友好的行動にとどまらず、食事や休息を含めた日常生活でも安定した関係を築けるかどうかです。
単独飼育下での出産という謎から始まったこの出来事は、いまや動物の繁殖管理、遺伝的な親子関係の把握、そして異なる種類の動物が共に暮らすための動物福祉という、動物園飼育の重要な課題につながっています。
モモ、イトウ、テラの3頭が今後どのような関係を築いていくのか。森きららが発表する同居の進展と、テラの成長に引き続き注目が集まります。
主な情報源:九十九島動植物園森きらら公式発表(2023年1月30日、2026年7月31日)、毎日新聞(2023年1月30日)、TBS NEWS DIG・NBC長崎放送(2023年1月31日)、させぼ通信(2023年7月12日)、テナガザルの繁殖行動に関する学術研究。