スイスでは、一定の法的・医学的条件のもとで、本人の意思に基づく自殺幇助(ほうじょ)が認められている。日本からスイスへ渡り、人生の最終段階を自ら選択した日本人も実際に存在する。2021年に報道された神経難病の男性「ヨシさん」、2022年にスイスで亡くなった迎田良子さんの事例は、日本社会に尊厳死と自己決定権をめぐる大きな問いを投げかけた。
2026年10月現在、スイスではDignitas(ディグニタス)やLifeCircle(ライフサークル)などの団体が活動を続けている。一方、スイス刑法115条と日本の刑法202条には大きな違いがあり、外国人の受け入れ、審査基準、費用、渡航後の判断変更など、知っておくべき論点も多い。2025年の公表実績や2026年の法制度を踏まえ、日本人の事例から制度の実像を整理する。
【日本人の事例】スイスで尊厳死を選んだヨシさん・迎田良子さんの背景

スイスで自殺幇助を受けた日本人の事例として、特に広く知られているのが、スイス公共放送協会の国際報道メディアSWI swissinfo.chが取材したヨシさんと、TBSが報じた迎田良子さんである。
両者に共通するのは、単に海外で死を選んだということではない。重い神経疾患による身体的な苦痛や生活上の制約を抱え、自分の人生の終わりをどう迎えるかという問題に向き合った点だ。
2021年:神経難病を患った日本人男性「ヨシさん」2021年9月24日、SWI swissinfo.chは「スイスで安楽死した日本人が最期に伝えたかったこと」と題する詳細な取材記事を公開した。
主人公のヨシさんは仮名で、東日本に住む40代前半の独身会社員だった。2016年ごろから身体に異変が生じ、運動ニューロン疾患の疑いがあると診断された。ALS(筋萎縮性側索硬化症)に似た症状が進行したものの、ALSの確定診断が下されたわけではない。
病状の進行によって身体機能が低下し、食事や睡眠にも深刻な影響が出ていた。本人は人工呼吸器などを利用して延命する選択を否定していたわけではなく、自分自身が望む生き方について考え続けていた。
2018年、ヨシさんはスイス・バーゼルを拠点とする自殺幇助団体LifeCircleに連絡した。取材記事によれば、渡航前に同団体から承認を受けていたが、当初は渡航を急いでいなかった。
しかし2021年6月、病状が急激に悪化。喉や舌の麻痺、手指の運動機能の低下などが進み、本人は予定を早めてスイスへ渡ることを決めた。渡航には両親も同行した。
2021年夏、ヨシさんはスイスで自殺幇助を受けて亡くなった。SWI swissinfo.chの宇田薫記者らによる取材は、渡航前後の本人の心理や家族との関係を含め、人生の最終段階における自己決定の難しさを伝えている。
2022年:迎田良子さんがスイスで選んだ人生の最終段階もう一つの重要な事例が、迎田良子さんである。
TBSの報道によれば、迎田さんは2022年、64歳のときに重い神経難病を抱えた状態でスイスへ渡り、自殺幇助を受けて亡くなった。
この出来事は、2024年7月13日のTBS「報道特集」で詳しく取り上げられた。さらに2025年のTBSドキュメンタリー映画祭では、西村匡史監督による「彼女が選んだ安楽死~たった独りで生きた誇りとともに~」として紹介された。
報道では、LifeCircleの代表者であるエリカ・プライシヒ医師と迎田さんの関係も描かれている。プライシヒ医師は迎田さんに寄り添い、本人の意思を確認しながら最期の時間をともにした。
迎田さんの事例で考えさせられるのは、病気による身体的な苦痛だけではない。本人がどのように人生を振り返り、他者に頼ることや自分らしさについて考えていたかという問題も含まれている。
遺族や関係者の受け止め方を含め、尊厳死をめぐる議論では、本人の意思だけでなく、周囲の人々が抱える喪失や葛藤にも目を向ける必要がある。
2021年:最後の段階で決断を変え、日本へ戻った日本人女性スイスでの日本人の事例には、実際に自殺幇助を受けた人だけでなく、最終段階で決断を変更した人もいる。
SWI swissinfo.chが2021年に報じた日本人女性「アイナさん」(仮名)は、当時30歳。幼少期から希少な神経疾患を抱え、日常生活に大きな制約があった。
アイナさんは2019年にLifeCircleへ申請し、受け入れの承認を得ていた。新型コロナウイルスの影響による延期を経て、父親とともにスイスへ渡った。
しかし、最終的な意思確認の場面で、家族への思いから自分の決断に迷いが生じた。担当したプライシヒ医師は、本人が十分に納得していない状態で決断を進めるべきではないと判断した。
結果としてアイナさんは実行を取りやめ、父親と日本へ戻った。
この事例が示すのは、スイスの自殺幇助が、過去に承認を受けたことだけで自動的に成立する制度ではないという点だ。最終的な意思が変化した場合、その判断も尊重される必要がある。
【2026年最新】スイスの2025年実績と外国人受け入れの実態
2026年に入ってから、スイスの自殺幇助制度をめぐる新しい公表資料が相次いだ。特に重要なのが、Dignitasの2025年活動報告とEXITの2025年実績である。
Dignitasは2025年に263件を公表外国人の利用も受け入れている団体として知られるDignitasは、2026年3月18日付の活動報告で、2025年の実績を公表した。
同報告によると、2025年末時点の会員数は15,968人。2025年に医師の支援を伴う自殺幇助を受けた人は263人だった。会員数に対して実際に利用した人は3%未満となっている。
ただし、この263件はDignitas全体の数字であり、日本人の利用者数ではない。また、スイス国内の全団体を合算した全国統計でもない。
EXITでは2025年に1,421件スイスの大手団体EXITのドイツ語圏・イタリア語圏組織は、2026年3月に2025年の実績を公表した。
2025年の自殺幇助件数は1,421件で、2024年の1,235件から増加した。2025年末の会員数は195,836人だった。
こちらもスイス全土の外国人利用者を示す数字ではない。EXITの公表値とDignitasの数字を単純に足し合わせて、スイス全体の利用者数や日本人の利用者数とすることはできない。
主要人物・団体・統計の関係一覧| 人物・団体 | 時期・実績 | 関係・確認できる事実 |
|---|---|---|
| ヨシさん(仮名) | 2021年 | LifeCircleを通じて自殺幇助を受けた日本人男性。SWI swissinfo.chが取材。 |
| 迎田良子さん | 2022年 | 64歳でスイスに渡航。LifeCircleのエリカ・プライシヒ医師が関わった事例。 |
| アイナさん(仮名) | 2021年 | LifeCircleでの最終意思確認後、実行を取りやめて日本へ帰国。 |
| Dignitas | 2025年 | 会員15,968人、自殺幇助263件を2026年3月に公表。 |
| EXIT | 2025年 | ドイツ語圏・イタリア語圏で1,421件を公表。 |
| エリカ・プライシヒ医師 | 2021~2026年 | LifeCircleの代表者として日本人事例やスイスの制度議論に関与。 |
2026年時点で特に注目されるのが、外国人による自殺幇助の統計問題だ。
スイスでは、外国人が自殺幇助を受けるために渡航する現象が「自殺ツーリズム」と呼ばれている。しかし、外国人の利用者数を毎年正確に把握した全国統計は公表されていない。
SWI swissinfo.chが2026年2月2日に報じたところによると、スイス議会では外国人による自殺幇助を統計的に記録・公表するための監視制度が検討されたものの、下院で否決された。
スイス連邦統計局には、外国人が関係する死亡についての情報も伝わっている。しかし、統計の対象が主に国内居住者であることや、追加調査に必要な人的・財政的負担などから、外国人の利用状況は体系的に検証されず、公表されていない。
したがって、2026年現在、日本人が年間何人スイスで自殺幇助を受けているかについて、確定した公式数字は存在しない。報道された個別事例と団体全体の実績を区別することが、実態を理解するうえで欠かせない。
【法律を整理】スイス刑法115条と自殺幇助・安楽死の違い
スイスの制度を理解するうえで最も重要なのが、刑法115条である。
一般に日本語では「スイスの安楽死」と紹介されることが多いが、法律上認められている自殺幇助と、医師などが本人に代わって死をもたらす積極的安楽死は、明確に異なる。
スイス刑法115条が規定する内容スイス刑法115条は、自殺をそそのかしたり、自殺を援助したりした者について、利己的な動機があり、相手が実際に自殺を遂げるか、未遂に終わった場合に処罰する規定である。
刑罰は5年以下の自由刑または罰金刑となる。
つまり、スイスでは自殺幇助に関わる行為が一律に合法というわけではない。援助者の動機、本人の判断能力、本人が行う最終的な行為など、複数の法的条件が関係する。
また、スイスには自殺幇助の手続きを包括的に定めた連邦法があるわけではない。刑法、麻薬法、医療倫理指針、各団体の自主規則、州ごとの規定などが組み合わさって制度を形成している。
自殺幇助と積極的安楽死は何が違う?最大の違いは、死に至る最終行為を誰が行うかという点にある。
自殺幇助では、本人が自分の意思で最終的な行為を行う。第三者は法的条件の範囲内で支援するが、本人に代わって死をもたらす行為をしてはならない。
一方、積極的安楽死は、医師や第三者が薬物などを用いて本人の死を直接引き起こす行為を指す。スイスでは刑法111条、113条、114条などの対象となり、原則として処罰される。
なお、延命措置を差し控えたり中止したりする「消極的安楽死」や、苦痛を和らげる医療行為の結果として生命が短くなる可能性を伴う「間接的積極的安楽死」は、これらとも区別される。
2026年3月5日にスイス連邦司法庁が公表した解説でも、これらの行為は別々の法的カテゴリーとして整理されている。
スイスと日本の法律の違い日本には、スイスの刑法115条に相当する形で自殺幇助を一定条件下で認める制度は存在しない。
日本の刑法202条は「自殺関与及び同意殺人」を規定している。人を教唆・幇助して自殺させた場合や、本人の嘱託・承諾を得て殺害した場合には、6か月以上7年以下の拘禁刑が定められている。
この条文は、自殺を援助する行為と、本人の同意を得て他者が殺害する行為の双方を対象としている。
ただし、日本人が海外で関与する行為について日本の刑法がどのように適用されるかは、行為地、具体的な関与、国際的な管轄などを踏まえて個別に判断する問題である。「日本人なら海外でも必ず処罰される」「スイスで行えば日本の法律と無関係」という単純な理解は正確ではない。
【外国人の受け入れ条件】審査基準と判断能力、LifeCircleの役割
スイスの特徴の一つは、国外に住む外国人を受け入れる団体が存在することだ。DignitasやLifeCircleは、その代表例として知られている。
ただし、外国人であれば誰でも受け入れられるわけではない。スイスの法的条件に加えて、医師による判断や団体独自の審査、医療倫理上の要件が関係する。
外国人の受け入れに国籍制限はあるのかスイス刑法115条には、スイス国籍者だけに自殺幇助を限定する規定はない。実際、DignitasやLifeCircleは国外居住者に関わる活動を行ってきた。
SWI swissinfo.chの報道でも、国外からスイスへ渡る人々の存在や、外国人を支援する団体の活動が取り上げられている。
一方、外国人を受け入れることと、個々の申請を承認することは別問題だ。団体の規則や医師の判断によって結論が異なるため、国籍だけを根拠に受け入れの可否を断定することはできない。
審査で重視される4つの要素スイス医科学アカデミー(SAMS)の医療倫理指針では、自殺幇助を検討する際に、主に次の4つの要素が重視されている。
- 判断能力:本人が自分の状況や決断の意味を理解し、意思決定できること。
- 自律性:他人からの圧力ではなく、本人の自由で熟慮された意思に基づくこと。
- 耐え難い苦痛:医学的に説明できる重い症状や機能障害などによる苦痛が存在すること。
- 代替手段の検討:緩和ケアなどの選択肢が検討され、本人にとって適切かどうかが判断されていること。
特に判断能力と自律的な意思については、医師以外の独立した第三者による確認も求められる。
重要なのは、本人が死を望んでいると表明しただけで審査が成立するわけではない点だ。精神状態、意思決定の自由、苦痛の医学的背景、他の医療的選択肢などを総合的に検討する必要がある。
エリカ・プライシヒ医師とLifeCircleLifeCircleを語るうえで重要な人物が、医師であり同団体の代表者として知られるエリカ・プライシヒ氏である。
プライシヒ医師は、ヨシさんや迎田良子さん、アイナさんの事例に関連して報道されている。特にアイナさんの事例では、本人が最終段階で迷いを示した際、決断を強行しない姿勢が報じられた。
また、2026年2月のSWI swissinfo.chの報道では、プライシヒ氏は外国人による自殺幇助の統計整備や制度の透明性についても意見を示している。
この点は重要だ。制度を支える団体の内部でも、本人の自己決定を尊重することと、審査の透明性や社会的な監督を確保することの両立が課題になっている。
【費用を検証】スイスの自殺幇助にかかる金額は日本円でいくら?
スイスの尊厳死を調べる際に、多くの人が気にするのが費用である。
団体によって料金体系は異なり、会員費、事務関連費用、医療関連費用、葬送関連費用などが含まれる場合がある。加えて、国外から訪れる場合には渡航や宿泊などの費用も別に考えなければならない。
Dignitasの公表費用Dignitasが公開している費用説明では、関連費用の合計は一般的に7,500~11,000スイスフランとされている。
上限の11,000フランには、団体による葬送関連の手続きなども含まれる。7,500フランの場合は、団体が葬送や行政手続きを行わないケースに相当する。
これらは付加価値税を含まない金額であり、料金変更の可能性もある。また、初期の費用を支払ったからといって、最終的な承認が保証されるわけではない。
LifeCircleの公表費用LifeCircle関連のLife-End Associationの規約には、スイス国内居住のスイス国民と、それ以外の人で異なる費用が記載されている。
公表規約上の金額は、スイス国内居住のスイス国民が4,900スイスフラン、それ以外が10,500スイスフラン。後者には航空券、ホテル、食事などの渡航関連費用は含まれていない。
日本円に換算した費用の目安2026年10月30日の為替水準を1スイスフラン=約191円として換算すると、次のようになる。
- Dignitas:約143万~210万円
- LifeCircle関連規約:約201万円
この金額は団体が公開する費用の換算目安であり、渡航費、宿泊費、その他の個別費用を含む総額ではない。為替変動や団体の料金改定によっても変わる。
また、DignitasとLifeCircleでは費用に含まれるサービスの範囲が異なるため、単純な価格比較には注意が必要だ。
【日本との違い】自殺ツーリズムの課題と尊厳死・緩和ケアの比較
スイスの制度が国際的な議論を呼ぶ理由は、法律上の自己決定権だけではない。外国人の受け入れ、医療の質、社会的な監督、経済格差、家族への影響など、複数の問題が重なっているからだ。
自殺ツーリズムは単なる海外渡航ではない自殺ツーリズムという言葉は、外国人が自殺幇助を受けるためにスイスへ移動する現象を指す。
しかし、実際の日本人事例を見ると、通常の観光旅行とはまったく異なる事情がある。神経疾患などによって身体機能が低下するなかで、長距離移動そのものが大きな負担となる場合もある。
加えて、本人の意思だけでなく、家族の受け止め方、言語の問題、医療情報の共有、死亡後の手続きなど、国境を越えることによる課題も生じる。
2026年2月のスイス議会をめぐる報道は、外国人の利用者数を把握する仕組みが十分でないことを改めて浮き彫りにした。
特に、全国的な統計がない状態では、外国人の利用が増えているのか、日本人がどれほど関わっているのか、制度の運用にどのような問題が生じているのかを客観的に評価しにくい。
尊厳死と緩和ケアは対立する概念ではない尊厳死や自殺幇助を考える際、比較対象として欠かせないのが緩和ケアである。
緩和ケアは、病気そのものを治す治療とは異なり、身体的な痛み、精神的な苦痛、社会的な不安、スピリチュアルな問題などを総合的に支援する医療である。
世界保健機関(WHO)は、緩和ケアについて、苦痛を予防・軽減し、患者と家族の生活の質を高める取り組みと定義している。また、死を早めることも遅らせることも目的としない。
厚生労働省も、がんの緩和ケアについて、終末期だけではなく診断時から治療と並行して提供する考え方を示している。
つまり、緩和ケアは単に死を迎える直前の医療ではない。病気を抱えながら生活する期間を支え、患者本人や家族の負担を軽減するための包括的な支援である。
自殺幇助と緩和ケアは、法律上も医療上も異なるものだ。緩和ケアを十分に知らないまま、苦痛を取り除く方法は自殺幇助しかないと考えてしまうことは避けなければならない。
【プロの結論】2026年に見るべき本質的な問題スイスの制度をめぐる議論で重要なのは、合法か違法かという二択だけで問題を整理しないことだ。
第一に、自己決定権をどこまで尊重するのかという問題がある。本人の判断能力と自由意思を尊重することは重要だが、病気による孤立、経済的な不安、介護負担への罪悪感などが意思決定に影響していないかを検討する必要がある。
第二に、審査の透明性と公的な統計の整備である。2026年時点でも外国人の利用者数が体系的に公表されていない状況は、制度を評価するうえで大きな情報上の課題となっている。
第三に、緩和ケアや在宅医療など、本人が生き続けるために選べる支援が十分に提供されているかという問題だ。医療や介護の支援不足が、本人の選択肢を狭めていないかを検証することも欠かせない。
スイスの事例を日本で議論する際には、本人の尊厳と自己決定を尊重する姿勢と、死を選ばざるを得ない社会的な圧力を取り除く取り組みを、同時に考える必要がある。
【スイス尊厳死を選んだ日本人】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:スイスで尊厳死を選んだ日本人には、どのような事例がありますか?
A1:代表的な報道事例には、2021年にLifeCircleを通じて自殺幇助を受けたヨシさん(仮名)と、2022年にスイスで亡くなった迎田良子さんがある。一方、2021年にスイスへ渡ったアイナさん(仮名)は最終段階で実行を取りやめ、日本へ戻った。
Q2:2026年現在、日本人はスイスで自殺幇助を受けられますか?
A2:スイスには国外居住者を受け入れる団体が存在し、日本人が関わった事例も報道されている。ただし、外国人であれば自動的に認められる制度ではない。本人の判断能力や自律的意思、医学的な状況などを含めた個別の審査が関係する。
Q3:スイスの尊厳死にかかる費用は日本円でいくらですか?
A3:公表されている団体の費用を2026年10月30日の為替水準で換算すると、Dignitasは約143万~210万円、LifeCircle関連のLife-End Associationは約201万円が目安となる。航空券や宿泊費などは別途で、料金も変更される可能性がある。
まとめ:スイス尊厳死の現状と日本社会が考えるべき課題
スイスで尊厳死を選んだ日本人の事例は、2021年のヨシさん、2022年の迎田良子さんなど、実際の報道記録によって確認できる。また、アイナさんのように最終段階で意思を変更した事例もあり、自己決定には迷いや家族との関係が深く関わることが分かる。
2026年の最新動向では、Dignitasが2025年に263件、EXITのドイツ語圏・イタリア語圏組織が1,421件を公表した。一方、外国人の利用状況については全国的な統計が整備されておらず、日本人の年間利用者数も明らかになっていない。
法律面では、スイス刑法115条が利己的動機による自殺幇助を処罰対象とし、日本の刑法202条とは制度の考え方が異なる。外国人の受け入れにも個別審査があり、費用だけで制度の実態を判断することはできない。
尊厳死をめぐる問題は、本人の自己決定権、医療倫理、家族の思い、社会保障、緩和ケアの充実などが複雑に交差するテーマである。スイスの事例を通じて日本が考えるべきなのは、死を選ぶ権利の是非だけではなく、病気や障害を抱えた人が孤立せず、十分な医療と支援を受けながら自分らしく生きられる社会をどう実現するかという問題でもある。
2026年の主要根拠資料:
- SWI swissinfo.chによる日本人事例と2026年の制度報道
- スイス連邦司法庁による2026年3月の法制度解説
- Dignitasの2025年活動報告(2026年3月18日公表)
- EXITの2025年実績(2026年3月公表)
- スイス医科学アカデミーの医療倫理指針
- 厚生労働省・WHOの緩和ケア資料
為替換算の参考(2026年10月30日、1 CHF=約191円)