「専業主婦は自分で年金保険料を払っていないのに、老後には年金を受け取れるのはずるい」「共働き世帯や自営業者は毎月保険料を負担しているのに、不公平ではないか」。こうした疑問の背景にあるのが、国民年金の第3号被保険者制度です。会社員や公務員に扶養されている配偶者は、一定の条件を満たせば自分で国民年金保険料を納めなくても、老齢基礎年金の受給資格を積み上げられます。
2026年度は、老齢基礎年金の満額が月額70,608円に改定されたほか、10月にはいわゆる「106万円の壁」の賃金要件が撤廃されました。加えて、厚生労働省は2026年9月に第3号被保険者制度そのものを検討する専門会議を開催しています。制度の仕組み、負担の違い、不公平と批判される理由、今後の見直しまで、公的資料をもとに整理します。
【まず結論】専業主婦の年金は本当にずるいのか?制度の実態を検証

結論からいえば、本人が直接保険料を負担せずに老齢基礎年金を受け取れるという点では、ほかの加入者と負担の仕組みに違いがあります。 この違いが、専業主婦年金不公平という批判につながっています。
ただし、第3号被保険者は保険料を一切負担していない人という単純な位置づけではありません。制度上、厚生年金の被保険者全体で基礎年金の費用を負担する仕組みになっています。
そもそも第3号被保険者とは?国民年金の第3号被保険者とは、厚生年金に加入している会社員や公務員などに扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者を指します。
専業主婦だけでなく、条件を満たす専業主夫も対象です。
この制度の大きな特徴は、次の3点です。
- 本人が国民年金保険料を個別に納める必要がない。
- 第3号被保険者であった期間は、老齢基礎年金の納付済期間として扱われる。
- 自分自身が厚生年金に加入していなければ、その期間について老齢厚生年金の報酬比例部分は積み上がらない。
つまり、保険料を個別に納めずに基礎年金の権利を得られる一方、会社員として厚生年金に加入している人と同じ年金構成になるわけではありません。
制度が生まれたのは1985年第3号被保険者制度が創設されたのは1985年の年金制度改正です。
当時、会社員などの被用者年金に加入している人の配偶者は、国民年金への加入が任意でした。本人が加入していない場合、障害を負っても障害基礎年金を受給できず、離婚した際にも自分名義の年金を確保できない問題がありました。
そこで、専業主婦も国民年金の強制適用対象とし、本人名義の年金権を保障する仕組みとして第3号被保険者制度が導入されました。
厚生労働省の2026年9月の検討会でも、この歴史的な制度創設の経緯が改めて説明されています。
制度の出発点には、保険料負担を免除するという考えだけではなく、家庭内で働く配偶者にも独立した年金権を保障するという目的がありました。
【対象条件を解説】第3号被保険者になれる人と130万円の壁
専業主婦であれば、誰でも自動的に第3号被保険者になれるわけではありません。
重要なのは、本人の年齢、配偶者の加入制度、収入、扶養関係です。
第3号被保険者になるための主な条件2026年11月現在、基本的な条件は次のとおりです。
- 20歳以上60歳未満であること。
- 厚生年金に加入している第2号被保険者の配偶者であること。
- 原則として日本国内に住所を有すること(一定の海外居住特例あり)。
- 年間収入が原則130万円未満であること。
- 同一世帯の場合、原則として本人の収入が配偶者の収入の2分の1未満であること。
別居している場合には、本人の収入が配偶者からの援助額より少ないことなど、別の認定基準が適用されます。
なお、本人が勤務先の社会保険加入条件を満たす場合は、年収130万円未満でも第3号被保険者にはなりません。自分自身が第2号被保険者として厚生年金に加入することになります。
130万円の壁とは何か130万円の壁とは、配偶者の社会保険上の扶養から外れるかどうかを判断する収入基準です。
原則として年間収入が130万円以上になると、第3号被保険者としての資格を失い、自分で社会保険料を負担する必要が生じます。
その後の加入先は、勤務先の社会保険加入条件を満たすかどうかによって変わります。
- 勤務先の加入条件を満たす場合:厚生年金・健康保険に加入。
- 勤務先の加入条件を満たさない場合:国民年金第1号被保険者となり、国民健康保険にも加入するのが原則。
この違いは非常に大きなポイントです。
厚生年金に加入すれば、将来の老齢厚生年金が増えるほか、健康保険の傷病手当金や出産手当金などの保障も受けられる場合があります。
2026年4月から130万円の判定方法にも変更2026年4月1日から、被扶養者の年間収入を判断する方法にも変更がありました。
日本年金機構によると、労働条件通知書や雇用契約書などに記載された賃金から見込まれる年間収入を基準に、扶養認定を判断する取り扱いが始まっています。
契約上の年間収入が130万円未満で、ほかの収入が見込まれないなどの条件を満たせば、実際の収入が一時的に変動した場合でも扶養認定を受けられる可能性があります。
対象となる賃金には諸手当や賞与も含まれます。単純に基本給だけで判断できるわけではありません。
【徹底比較】第1号・第2号・第3号で年金と保険料はどう違う?
専業主婦の年金が不公平と感じられる理由を理解するには、国民年金の3つの被保険者区分を比較する必要があります。
日本の公的年金は、原則として国民年金を基礎とし、会社員や公務員には厚生年金が上乗せされる2階建て構造です。
3つの被保険者の違い| 比較項目 | 第1号被保険者 | 第2号被保険者 | 第3号被保険者 |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 自営業者・学生・無職など | 会社員・公務員など | 第2号の扶養配偶者 |
| 加入制度 | 国民年金 | 国民年金+厚生年金 | 国民年金 |
| 本人の保険料 | 定額で納付 | 給与・賞与に応じて負担 | 個別負担なし |
| 会社負担 | なし | 原則として本人と折半 | 個別の会社負担なし |
| 老齢基礎年金 | 受給対象 | 受給対象 | 受給対象 |
| 老齢厚生年金 | 原則なし | 加入期間・報酬に応じて加算 | 第3号期間には加算なし |
厚生労働省の年金制度解説によると、第1号被保険者は定額保険料を自分で納め、第2号被保険者は給与・賞与に応じた保険料を事業主と折半します。第3号被保険者は、個別に保険料を納める必要がありません。
2026年度の保険料はいくら?2026年度の国民年金保険料は、月額17,920円です。
第1号被保険者は原則として、この金額を自分で納付します。
一方、会社員などの第2号被保険者は、厚生年金保険料率18.3%を給与・賞与に適用し、原則として本人と勤務先が半分ずつ負担します。
本人の負担率は9.15%です。
例えば、標準報酬月額が30万円なら、厚生年金保険料の本人負担は概算で月額27,450円になります。実際には標準報酬月額や賞与などによって決まります。
第3号被保険者は、このような個別の保険料納付を行いません。
専業主婦の老後の年金受給額は月額いくら?2026年度の老齢基礎年金の満額は、昭和31年4月2日以後生まれの人で月額70,608円、年額847,300円です。
第3号被保険者として過ごした期間は、保険料納付済期間として扱われます。そのため、40年間の加入期間を満たせば、専業主婦であっても老齢基礎年金の満額を受け取れる仕組みです。
ただし、40年間のすべてが第3号被保険者期間である必要はありません。第1号・第2号としての納付済期間なども合算されます。
反対に、未納期間などがあれば年金額は減少します。専業主婦だから自動的に満額が保障されるわけではありません。
専業主婦世帯と共働き世帯の年金比較日本年金機構が公表した2026年度の標準的な年金額は、月額237,279円です。
この金額は、平均標準報酬額(賞与を含む月額換算)45.5万円で40年間働いた会社員と、老齢基礎年金が満額となる配偶者の2人分を合計したモデルです。
つまり、会社員の老齢厚生年金に、夫婦2人分の老齢基礎年金を加えた金額です。
一方、共働き世帯では、夫婦それぞれが厚生年金に加入していれば、それぞれの基礎年金に加えて報酬比例の老齢厚生年金を受け取れます。
そのため、共働き世帯の年金総額がいくらになるかは、夫婦それぞれの給与や加入期間によって異なります。
重要なのは、第3号被保険者は基礎年金を受け取れるものの、厚生年金に加入して働き続けた人とは老後の年金構成が異なるという点です。
【不公平と言われる理由】専業主婦年金への批判と制度を支える事情
専業主婦の年金がずるいと批判される背景には、単純な保険料の違いだけでは説明できない問題があります。
特に議論されているのが、負担と給付のバランス、世帯間の公平性、働き方への影響です。
理由1:保険料を納める人と納めない人で基礎年金の権利が同じ最も大きな批判は、本人が直接保険料を納めていないにもかかわらず、保険料を納めた人と同じように基礎年金の加入期間が積み上がることです。
例えば、2026年度に第1号被保険者として1年間加入すれば、月額17,920円の保険料を納めます。
ところが、第3号被保険者は同じ1年間について個別の保険料を支払わず、納付済期間として扱われます。
自営業者や単身者、共働き世帯から見ると、負担の違いがそのまま不公平感につながります。
理由2:独身者や共働き世帯も制度を支えている第3号被保険者の保険料は、扶養している配偶者だけが個別に支払っているわけではありません。
厚生年金制度全体で費用を分担する仕組みです。
そのため、扶養する配偶者のいる会社員だけでなく、独身の会社員や共働き世帯の加入者も含めた制度全体の負担によって支えられています。
この点が、批判の中心となっています。
とりわけ、夫婦ともに厚生年金保険料を負担している世帯からは、配偶者の収入によって第3号被保険者になれる世帯との違いが問題視されます。
理由3:自営業者の配偶者は同じ仕組みを利用できない見落とされやすいのが、自営業者の配偶者との違いです。
会社員の配偶者が一定の条件を満たせば第3号被保険者になれるのに対し、自営業者の配偶者は原則として第3号被保険者にはなれません。
例えば、夫が会社員で妻が専業主婦の場合、妻は第3号被保険者になれる可能性があります。
一方、夫が自営業者で妻が専業主婦の場合、妻は原則として第1号被保険者となり、国民年金保険料を自分で納めます。
家事や育児を中心に担うという生活実態が似ていても、配偶者の職業によって保険料負担が異なるのです。
それでも制度を単純に「優遇」と言い切れない理由ここで見落としてはいけないのが、家庭内で担われている無償労働です。
育児、介護、家事などを担うために、仕事を辞めたり、労働時間を短くしたりする人がいます。
こうした人たちが老後に無年金・低年金となることを防ぐ役割も、第3号被保険者制度にはあります。
また、第3号被保険者は完全に働いていない人だけではありません。
2026年9月の厚生労働省検討会で示された資料では、第3号被保険者の5割以上が就労しており、働いている人の8割以上がパートとして働いていると説明されています。
加えて、同資料によれば、1995年度には1,220万人だった第3号被保険者数は、2024年度には641万人、2025年12月末には610万人まで減少しました。
つまり、制度の対象者は大幅に減少しており、実態も専業主婦だけではありません。
第3号被保険者の中には、出産・育児や介護によって働く時間を制限されている人もいます。
制度の公平性を考える際には、保険料を払っているかどうかだけでなく、どのような家庭状況や就労環境に置かれているかも考慮する必要があります。
【2026年最新】106万円の壁撤廃と第3号被保険者制度の見直し
2026年は、第3号被保険者制度をめぐる重要な転換点です。
特に注目すべきなのが、2025年に成立した年金制度改正法と、2026年9月に始まった第3号被保険者制度の専門的な検討です。
106万円の壁は2026年10月に賃金要件が撤廃2025年6月13日に成立した年金制度改正法では、短時間労働者への社会保険適用拡大が盛り込まれました。
そのうち、いわゆる106万円の壁に関係する月額賃金8.8万円以上という要件は、最低賃金の動向を踏まえて2026年10月に撤廃されました。
2026年11月現在、短時間労働者の社会保険加入では、従来の月額賃金8.8万円以上という要件はなくなっています。
ただし、週20時間以上の労働時間要件や企業規模要件などは引き続き関係します。
企業規模要件は、今後も段階的に縮小される予定です。
社会保険の適用拡大は2035年まで続く2025年改正法に基づく企業規模要件の見直しは、次のスケジュールで進みます。
| 時期 | 対象となる企業規模 |
|---|---|
| 2026年10月現在 | 厚生年金の被保険者数51人以上 |
| 2027年10月 | 36人以上 |
| 2029年10月 | 21人以上 |
| 2032年10月 | 11人以上 |
| 2035年10月 | 企業規模要件を撤廃 |
この変更によって、これまで社会保険に加入していなかった短時間労働者も、段階的に厚生年金・健康保険の対象となります。
厚生労働省の2025年改正時の試算では、企業規模要件の撤廃によって約70万人、賃金要件の撤廃によってさらに約110万人が新たに被用者保険の適用対象になると推計されています。
ただし、106万円の壁がなくなったからといって、130万円の壁までなくなったわけではありません。
この2つは別の基準です。
第3号被保険者制度そのものも見直しの検討が始まった2026年9月4日、厚生労働省は「国民年金第3号被保険者制度等に関する検討会」の第1回会合を開催しました。
この会議では、第3号被保険者の現状や制度に関する実態調査などが議題となっています。
特に注目されるのが、制度の利用者だけでなく、第1号・第2号被保険者との比較も含めて調査する点です。
厚生労働省が示した調査計画は次のとおりです。
- 20~59歳の男女を対象に約2万人規模のアンケートを実施。
- 第1号被保険者5,000人、第2号被保険者5,000人、第3号被保険者9,000人を予定。
- 第3号被保険者を中心に約70人への詳細なヒアリングを実施。
- 2026年度中に調査結果を取りまとめる予定。
調査では、扶養の範囲内で働く人だけでなく、働きたくても育児や介護などの事情で働けない人についても実態を把握する計画です。
ここで重要なのは、2026年11月現在、第3号被保険者制度の廃止が決定したわけではないという点です。
現在進んでいるのは、制度の実態を調査し、今後のあり方を検討する段階です。
今後考えられる見直しの方向性今後の議論では、次のような論点が焦点になると考えられます。
1. 第3号被保険者の対象範囲をどうするか。
2. 保険料負担と年金給付の公平性をどう確保するか。
3. 育児・介護などで働けない人の年金保障をどう維持するか。
4. 短時間労働者の厚生年金加入をどこまで広げるか。
5. 共働き世帯、単身世帯、自営業世帯との制度間の公平性をどう考えるか。
特に、単純な制度廃止ではなく、働き方や家庭環境の違いをどこまで年金制度に反映させるかが重要な争点になります。
【プロの結論】専業主婦の年金問題で知っておきたい判断基準
専業主婦の年金を考えるとき、最も大切なのは、現在の保険料負担と将来の年金受給額を分けて考えることです。
第3号被保険者は、現役時代の個別の保険料負担がないというメリットを持っています。しかし、老後に受け取る年金は原則として基礎年金であり、厚生年金に加入して働いた期間の報酬比例部分は積み上がりません。
一方、会社員として働けば保険料負担が生じるものの、将来の老齢厚生年金が増える可能性があります。
第3号被保険者を続ける場合に確認したいこと- 現在の世帯収入と社会保険料の負担。
- 将来の老齢基礎年金の見込み額。
- 自分自身の厚生年金加入期間。
- 配偶者の退職や転職による扶養資格の変化。
- 育児や介護など、今後の就労環境。
特に、配偶者が退職して第2号被保険者でなくなった場合などは、第3号被保険者の資格にも影響します。
厚生年金に加入して働く場合のメリット社会保険料が発生するため、加入直後は手取りが減ることがあります。
しかし、厚生年金に加入すれば、将来の老齢厚生年金が増えるだけでなく、障害厚生年金や遺族厚生年金などの保障にもつながります。
勤務先の健康保険に加入することで、傷病手当金や出産手当金などの対象になる場合もあります。
そのため、単純に「保険料を払わなくて済むから第3号が得」と考えるのではなく、長期的な収入と保障を比較することが大切です。
年金制度の公平性とは、全員が同じ金額を払うことだけではありません。負担能力、働き方、家庭内で担う役割、将来の保障をどう組み合わせるかという問題でもあります。
第3号被保険者制度の見直しでは、専業主婦だけを優遇するかどうかという議論にとどまらず、誰もが安心して働き、家庭を支え、老後の生活を維持できる仕組みが大切です。
【専業主婦の年金がずるいと言われる問題】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:専業主婦は本当に年金保険料を払わなくても年金をもらえる?
A1:一定条件を満たす第3号被保険者であれば、自分で国民年金保険料を納める必要はありません。その期間は納付済期間として扱われ、老齢基礎年金の計算に反映されます。ただし、費用は厚生年金制度全体で負担しています。
Q2:第3号被保険者制度は2026年に廃止される?
A2:2026年11月現在、廃止は決定していません。2026年9月に厚生労働省の専門検討会が始まり、制度の実態調査と今後のあり方について議論が進められています。
Q3:2026年度の専業主婦の年金はいくら?
A3:老齢基礎年金の満額は、昭和31年4月2日以後生まれの場合、月額70,608円です。40年間の納付済期間などを満たした場合の金額であり、第3号被保険者期間も納付済期間として計算されます。
Q4:自営業者の妻も第3号被保険者になれる?
A4:原則としてなれません。第3号被保険者になれるのは、厚生年金に加入する第2号被保険者に扶養されている配偶者です。自営業者の配偶者は、原則として第1号被保険者になります。
Q5:106万円の壁と130万円の壁は2026年になくなった?
A5:106万円の壁に関係する月額8.8万円以上の賃金要件は2026年10月に撤廃されました。一方、130万円の扶養認定基準は残っています。勤務先の社会保険加入条件を満たす場合は、130万円未満でも厚生年金に加入することがあります。
まとめ:専業主婦の年金問題は2026年以降どう変わる?
専業主婦の年金がずるいと言われる最大の理由は、自分で保険料を個別に納めなくても、老齢基礎年金の加入期間が積み上がる点にあります。
一方、第3号被保険者制度には、家庭内で育児や介護、家事を担う人の年金権を保障するという歴史的な目的があります。単純に保険料を払っていないという理由だけで、制度の必要性を判断することはできません。
2026年は106万円の壁に関係する賃金要件が撤廃され、社会保険の適用拡大がさらに進みました。また、9月には第3号被保険者制度そのものを検討する専門会議も始まっています。
今後の焦点は、保険料負担の公平性と、育児・介護などを担う人の年金保障をどのように両立させるかです。
専業主婦か共働きかという二者択一ではなく、どのような働き方や家庭環境でも老後の生活を支えられる制度にできるか。 2026年度の議論は、日本の年金制度の将来を考える重要な節目になっています。