ひかがみの語源を調べると、「ひきかがみ」という古い言葉にたどり着きます。
『精選版 日本国語大辞典』では、ひかがみを「ひきかがみ(隠曲)」が変化した語として説明しています。また、古い形として「ひっかがみ」も記録されています。
ひきかがみから現在の呼び方になるまで言葉の変遷を理解するには、古い文献に登場する形を年代順に見ると分かりやすくなります。
| 時代・年代 | 呼び方 | 言葉の特徴・記録 |
|---|---|---|
| 上代 | よほろくぼ | 膝裏を指す古い呼称 |
| 平安時代 | よほろ・よをろ | 『和名類聚抄』などに記録 |
| 970~999年頃 | よをろ | 『宇津保物語』に使用例 |
| 1028~1092年頃 | よをろ | 『栄花物語』に使用例 |
| 室町時代 | ひっかがみ | ひかがみにつながる古い語形 |
| 1603~1604年 | ひっかがみ | 『日葡辞書』に記録 |
| 1631年 | ひかがみ | 『多識編』に記録 |
| 1666年 | ひかがみ・よぼろ・うつあし | 『訓蒙図彙』に記録 |
この変遷は、『日本国語大辞典』の語誌と三省堂の連載「『日本国語大辞典』をよむ」で紹介されている文献情報に基づくものです。
「ひきかがみ」の由来は?語源として押さえておきたいのは、辞書が「ひきかがみ(隠曲)」という形を示していることです。
「ひっかがみ」は、その後に見られる語形で、さらに短くなった形が「ひかがみ」です。
インターネット上では「引く」と「屈む」を組み合わせた言葉として説明されることもあります。しかし、辞書に記載された語源表記と、現代語から推測した意味の分解は区別する必要があります。
確実に注目したいのは、室町時代以降に「ひっかがみ」が見られ、近世には「ひかがみ」という短い形が定着していったという語誌上の流れです。
なぜ昔の人は膝裏に独立した名前を付けたのか昔の日本語には、身体の細かな部位を表す独特の言葉が数多くありました。
ひかがみもその一つです。
膝は歩く、座る、立つ、しゃがむといった動作に欠かせない関節です。その後ろ側にできる特徴的なくぼみを、単に「膝の裏」と説明するのではなく、一つの身体名称として表現していたことが分かります。
現代では「膝裏」という分かりやすい言葉が広く使われるようになりましたが、古い身体名称が辞書や文学、武道の世界に残っているのは興味深い点です。
【よぼろ・うつあし】ひかがみの別称と古語の意味

ひかがみには、現在ではほとんど使われなくなった別称があります。
代表的なものが「よほろ」「よぼろ」「よおろ」「うつあし」です。
これらは単なる創作的な言い換えではありません。『日本国語大辞典』や『デジタル大辞泉』に記載されている、歴史的な身体名称です。
よほろ・よぼろはどんな意味?「よほろ」は、ひかがみの古い呼び方です。
『和名類聚抄』は934年頃に成立した辞書で、「膕」に「與保呂(よほろ)」という読みを記録しています。加えて、その意味を脚の曲がる部分として説明しています。
その後、「よぼろ」「よおろ」といった語形も使われるようになりました。
『宇津保物語』や『栄花物語』にも「よをろ」という形が見られます。古典文学の中にも膝裏を表す言葉が残っているのです。
「うつあし」も同じ場所を指す?はい。
「うつあし」も、古い辞書に記録されたひかがみの別称です。
現在の日本語ではほとんど使用されませんが、古語を調べたり、古典的な身体表現を理解したりする際に知っておきたい言葉です。
ただし、現代の「内足」などの一般的な表現と、古語の「うつあし」を安易に同一視するのは避けましょう。
「よぼろ」は別の意味も持つ?ここには興味深い注意点があります。
「よほろ・よぼろ」は、膝裏を意味する「膕」だけでなく、「丁」という漢字を当てた場合、古代の労役に従事する男性を意味する言葉としても使われていました。
『精選版 日本国語大辞典』では、古代に国家のために徴発されて働いた人民、特に律令制における正丁に関係する語義も紹介されています。
つまり、同じ読み方でも、漢字と文脈によって意味が変わります。
「膕」と書かれていれば身体の部位、「丁」と書かれていれば歴史的な労役に関係する意味である可能性があります。
古文を読むときには、読みだけで判断せず、漢字と前後の文章を確認することが大切です。
【日常・弓道・剣道】ひかがみの正しい使い方と例文
ひかがみは、日常会話では珍しい言葉ですが、文章表現や身体の動きを説明する場面では使えます。
特に注目したいのが、弓道と剣道です。
両方の武道では、姿勢や下半身の安定を説明する際に、膝裏を意識する表現として登場します。
日常生活での使い方・例文普段の会話では、相手が言葉を知らない可能性を考え、「膝裏」という説明を添えると伝わりやすくなります。
例文1:身体の場所を説明する場合
「ひかがみとは、膝の後ろ側にあるくぼみのことです。」
例文2:ストレッチについて話す場合
「前屈をするときは、ひかがみのあたりにも意識を向けてみましょう。」
例文3:身体の状態を説明する場合
「長時間座っていたら、ひかがみのあたりに違和感を覚えた。」
例文4:文学的な表現として使う場合
「彼女は膕を伸ばし、静かに姿勢を整えた。」
このように、ひかがみは身体の場所を具体的に表したいときに使える言葉です。
ただし、一般的な会話でいきなり「膕」と書いても読めない人が多いため、読み方を添えると親切です。
弓道では「ひかがみを伸ばす」が重要弓道では、ひかがみは身体の基本姿勢を整えるうえで意識される部位です。
公益財団法人全日本弓道連盟の公式サイトに掲載されている「射法について」では、射法八節のうち、胴造りの説明に「膕(ひかがみ:膝の後ろ)を伸ばす」と記されています。
弓道でいう胴造りは、射を行う際の身体の基本姿勢を整える動作です。
ここで膝裏を意識するのは、下半身を安定させ、身体全体の姿勢を整えるためです。
また、全日本弓道連盟の弓道用語辞典にも「ひかがみ」という項目があり、膝関節の内側に関係する名称として紹介されています。
弓道を始めたばかりの人が「ひかがみを伸ばす」と指導された場合、まず膝の後ろ側を意識することがポイントになります。
ただし、膝を必要以上に反らせて固定することと、正しい姿勢で膝裏を伸ばすことは別です。
剣道でもひかがみが姿勢のポイントになる剣道でも、ひかがみは足さばきや構えを説明するときに登場します。
全日本剣道連盟の指導者インタビュー「第9回 香田郡秀範士に訊く」では、構えた際の膝の使い方について、右膝にはややゆとりを持たせ、左のひかがみは伸ばすことが望ましいという指導上の考え方が紹介されています。
ここで重要なのは、両膝を一律に強く伸ばすという話ではないことです。
剣道では、構えの安定性だけでなく、前後の移動や打突に移るときの動きやすさも求められます。
そのため、膝の使い方を左右で区別して説明することがあります。
弓道と剣道での使われ方を比較| 比較項目 | 弓道 | 剣道 |
|---|---|---|
| 主な登場場面 | 胴造り・射法 | 構え・足さばき |
| 意識すること | 下半身と身体の縦線の安定 | 構えの安定性と素早い移動 |
| ひかがみの指導例 | 膝裏を伸ばす | 左のひかがみを伸ばす |
| 根拠となる資料 | 全日本弓道連盟の公式解説 | 全日本剣道連盟の指導者インタビュー |
両方に共通するのは、ひかがみを単なる身体の名称としてではなく、姿勢を整えるための意識すべき部位として扱っている点です。
武道経験者にとっては、日常会話では聞き慣れない「ひかがみ」という言葉が、稽古の現場では具体的な身体操作を表す言葉になっています。
【プロの結論】ひかがみを正しく理解するための3つのポイント
ひかがみという言葉を理解するときは、次の3点を押さえておくと混乱しません。
1. 場所を正確に理解する
ひかがみは膝の後ろ側にあるくぼみです。ふくらはぎや膝頭とは異なります。
2. 言葉の種類を区別する
「膕」は漢字表記、「膝窩」は解剖学的な呼称、「膝裏」は日常的な呼称です。同じ場所を指していても、使用する場面が異なります。
3. 古語と現代語を混同しない
「よほろ」「よぼろ」「うつあし」は古い呼び方です。現代の一般的な会話では「膝裏」と言い換えた方が伝わりやすい場合があります。
特に、古典文学を読む人、弓道・剣道を学ぶ人、日本語の語源に関心がある人にとって、ひかがみは覚えておく価値のある言葉です。
【よくある質問】ひかがみに関するFAQ
Q1:ひかがみとは簡単にいうと何ですか?
ひかがみとは、膝の後ろ側にあるくぼみのことです。漢字では「膕」と書き、日常的には膝裏と呼ばれています。
Q2:ひかがみの読み方と画数は?
「ひかがみ」と読みます。漢字の「膕」は15画で、部首は肉部(にくづき)です。音読みはカクです。
Q3:膝窩とひかがみは同じ意味ですか?
基本的には同じ場所を指します。膝窩は「しっか」と読み、解剖学的な説明にも使われる名称です。
Q4:ひかがみの昔の呼び方は何ですか?
「よほろ」「よぼろ」「よおろ」「うつあし」などがあります。特に「よほろ」は平安時代の辞書にも記録された古い呼び方です。
Q5:ひかがみの語源は何ですか?
『精選版 日本国語大辞典』では、「ひきかがみ(隠曲)」が変化した言葉として説明されています。「ひっかがみ」という語形を経て、近世には「ひかがみ」が使われるようになりました。
Q6:ひかがみは弓道や剣道でも使われますか?
はい。弓道では胴造りの姿勢で膝裏を伸ばすことが公式解説に記されています。剣道でも構えや足さばきに関連して、指導者が使う言葉です。
まとめ:ひかがみは日本語の歴史を残す身体名称
ひかがみとは、膝の後ろ側にあるくぼみを指す日本語で、漢字では「膕」と書きます。
その読み方は「ひかがみ」。15画の漢字で、部首は肉部(にくづき)です。
医学・解剖学的な呼称である「膝窩(しっか)」と同じ部分を指し、古くは「よほろ」「よぼろ」「うつあし」といった名前でも呼ばれていました。
語源をたどると「ひきかがみ(隠曲)」に行き着き、室町時代以降の「ひっかがみ」を経て、近世には現在の「ひかがみ」という形が使われるようになっています。
加えて、弓道では膝裏を伸ばす姿勢の指導に、剣道では構えや足さばきの説明に登場します。
覚えておきたいのは、「ひかがみ=膝裏のくぼみ」「膕=ひかがみ」「膝窩=しっか」という3つの対応関係です。
普段はあまり使わない言葉ですが、意味を知っていれば、古典文学や武道の指導、身体に関する専門的な文章を読むときにも理解が深まります。
ひかがみは、身体の小さな一部分に付けられた名前でありながら、日本語の歴史と文化を今に伝える興味深い言葉です。