執行役員と部長は、どちらも企業の組織運営を担う重要なポジションですが、その役割や権限、会社経営への関与範囲には明確な違いがあります。一般的に、執行役員は取締役会が決定した経営方針に基づいて全社的な業務執行を担う立場であり、部長は特定の部署を統括し、部門目標の達成や人材管理に責任を持つ管理職です。ただし、執行役員は会社法で定められた役職ではないため、企業によって社内序列や権限の設定は異なります。
2026年現在、企業のコーポレートガバナンス改革や経営と業務執行の分離が進むなか、執行役員制度の位置づけも多様化しています。部長から執行役員への昇進を目指す人や、社内の役職関係を正しく理解したい人にとっては、肩書きだけでなく、任命方法、雇用契約、報酬体系、決裁権限まで確認することが欠かせません。
【基本知識】執行役員とは?部長とは?役職の意味と役割を整理

執行役員とは、取締役会や代表取締役が決定した経営方針に従い、会社の業務執行を担当する社内の役職です。
企業が経営判断と日常的な業務執行を分け、経営の効率性を高める目的で設置する制度であり、法律によって設置が義務づけられているものではありません。
主な職務は次のとおりです。
- 経営戦略や事業計画の実行
- 複数の部門や事業領域の統括
- 予算や経営資源の配分
- 事業業績や売上目標の管理
- 組織改革や人材配置の推進
- 取締役会や代表取締役への業務報告
企業によっては、営業、製造、財務、人事、ITなど特定の領域を担当する執行役員を置くこともあります。
また、専務執行役員、常務執行役員、上席執行役員などの役位を設ける企業もあり、同じ執行役員でも担当範囲や社内序列が異なります。
重要なのは、執行役員という肩書きそのものに法律上の一律の権限が付与されるわけではないことです。具体的な権限は、企業の執行役員規程や職務権限規程、任命時の決定内容によって定められます。
部長とは部長とは、営業部、経理部、人事部、開発部など、会社内の特定の部門を統括する管理職です。
担当部署の業務を円滑に進め、組織目標を達成することが主な役割となります。
具体的には、次のような職務を担います。
- 部門の事業計画や年間目標の策定
- 部下の育成や人事評価
- 部門予算の管理
- 業務進捗や生産性の確認
- 他部署との調整
- 部門内の問題解決と業務改善
部長は現場と経営陣をつなぐ重要な存在です。
企業によっては、部長が数十人から数百人規模の組織を統括する場合もあります。大規模な事業部門では、部長であっても相当な予算や人事に関する決裁権を持つことがあります。
ただし、部長という肩書きだけで契約締結や会社を代表する権限が自動的に与えられるわけではありません。会社から委任された職務や権限の範囲が判断基準になります。
【徹底比較】執行役員と部長の違いは?どちらが上なのか
執行役員と部長の違いを理解するうえで、特に重要なのが経営への関与範囲、意思決定権限、責任の大きさです。
執行役員と部長の比較一覧| 比較項目 | 執行役員 | 部長 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 全社的な業務執行 | 担当部門の統括 |
| 経営への関与 | 経営方針の実行や経営会議への参加など | 部門計画の立案・実行 |
| 管理範囲 | 全社・複数部門・事業領域など | 特定の部署 |
| 決裁権限 | 委譲された経営・業務執行権限 | 委譲された部門内の権限 |
| 人事権限 | 担当領域の幹部人事など | 部門内の配置・評価など |
| 主な責任 | 担当事業や全社的な業務執行の成果 | 部門目標や組織運営の成果 |
| 任命方法 | 社内規程や取締役会決議など | 人事異動や社内辞令など |
| 会社法上の地位 | 原則として法定の役員ではない | 法定の役員ではない |
| 雇用・契約形態 | 雇用型・委任型など | 一般的に雇用契約 |
| 報酬 | 役位・企業規模・契約形態による | 給与・賞与・役職手当など |
この比較から分かるように、両者の本質的な違いは、単純な役職名ではなく、担当する経営領域と委譲された権限にあります。
執行役員と部長はどちらが上?一般的な日本企業の組織構造では、執行役員が部長より上位に位置づけられるケースが多く見られます。
典型的な組織のイメージは次のとおりです。
代表取締役社長
↓
取締役・専務執行役員・常務執行役員
↓
執行役員
↓
本部長・事業部長・部長
↓
次長・課長
↓
係長・主任・一般社員
ただし、これは一般的な組織モデルであり、法律で決められた序列ではありません。
例えば、執行役員が特定の部門だけを担当し、別の部門長が会社全体に関わる重要プロジェクトを統括している企業もあります。
また、部長を兼務する執行役員も存在します。
したがって、実際の上下関係を判断するときは、組織図だけでなく、誰が誰に業務報告を行うのか、どの範囲の決裁権限を持つのかまで確認する必要があります。
執行役員兼部長とは?「執行役員兼営業部長」「執行役員人事部長」といった肩書きを見かけることがあります。
これは、執行役員として全社的な業務執行に関与しながら、特定の部署の責任者も兼ねている状態です。
例えば、営業部門を担当する執行役員が営業部長を兼務する場合、営業戦略の実行だけでなく、部門予算、営業組織の人事、現場の業務管理まで担うことがあります。
兼務には、経営方針を現場へ迅速に伝えられるメリットがあります。一方、全社的な視点と部門利益の間で判断が難しくなることもあります。
【法律上の違い】取締役・執行役・執行役員は何が違う?
執行役員と部長を正確に理解するには、会社法上の位置づけを押さえる必要があります。
執行役員の会社法上の位置づけ会社法には「執行役員」という役職の規定はありません。
つまり、執行役員は企業が独自に設ける社内制度上の役職です。
会社法上の取締役、会計参与、監査役などとは法的な位置づけが異なります。
そのため、執行役員に任命されたからといって、自動的に取締役と同じ会社法上の義務や権限が生じるわけではありません。
ただし、取締役を兼任している場合は別です。その人物は執行役員という社内肩書きとは別に、取締役として会社法上の義務と責任を負います。
執行役員と取締役の違い両者の大きな違いは、経営の意思決定・監督を担う立場なのか、業務執行を担当する立場なのかという点です。
取締役は株主総会で選任され、取締役会設置会社では取締役会の構成員として経営方針の決定や業務執行の監督を担います。
一方、執行役員は会社独自の制度によって任命され、取締役会や代表取締役から委譲された範囲で業務を執行します。
取締役には会社法上の善管注意義務や忠実義務などが課されます。執行役員については、その契約関係や実際の地位によって法的責任の内容が異なります。
執行役員と執行役の違い名前が似ているため混同されやすいのが、執行役員と執行役です。
しかし、この2つは法律上まったく異なるものです。
執行役員: 企業が任意に設ける社内役職。会社法上の機関ではありません。
執行役: 会社法で規定された機関であり、指名委員会等設置会社に置かれる役職です。
会社法第402条では、執行役は取締役会の決議によって選任すると定められています。また、会社と執行役との関係は委任に関する規定に従います。
加えて、会社法第418条では、取締役会から委任を受けた業務執行の決定や、会社の業務執行を担うことが定められています。
執行役員と異なり、執行役は法律上の機関として位置づけられている点が決定的な違いです。
【任命・権限・雇用契約】執行役員制度の仕組みを解説
執行役員の任命方法執行役員の選任方法は、企業の組織設計や社内規程によって異なります。
一般的には、次のような手順で任命されます。
1. 社長や経営陣が候補者を選定する。
2. 人事部門や経営会議などで候補者の実績・適性を検討する。
3. 必要に応じて取締役会で審議・決議する。
4. 会社の規程に従って任命を決定する。
5. 辞令や社内発表によって正式に就任する。
なお、会社法第362条第4項第3号では、取締役会設置会社における重要な使用人の選任・解任を取締役会の決定事項としています。
執行役員が重要な使用人に該当するかどうかや、具体的な任命手続きは会社の制度設計によって確認する必要があります。
執行役員の権限と責任執行役員の権限は、社内規程や取締役会などからの権限委譲によって決まります。
主な権限には次のようなものがあります。
- 担当事業の予算や事業計画の実行
- 部門間の調整と業務執行の指揮
- 担当領域の人材配置や組織運営
- 社内規程に基づく決裁
- 担当事業の業績管理
一方、権限が大きくなるほど、業績目標の達成やコンプライアンス、リスク管理などに対する責任も重くなります。
ただし、執行役員に権限を委譲したからといって、取締役会や取締役の法的責任がなくなるわけではありません。
PwC Japanのコーポレートガバナンスに関する解説でも、執行役員の権限と責任を規程で明確にすること、取締役会の専決事項を委譲できないこと、取締役による監督が必要であることが示されています。
執行役員の雇用契約はどうなる?執行役員の契約形態には、主に次の種類があります。
雇用型
会社と雇用契約を結び、従業員として執行役員の職務を担当します。
一般的には、給与、賞与、退職金などが社内規程に基づいて決まります。
委任型
会社と委任契約を結び、従業員とは異なる契約上の立場で業務を担当します。
報酬や任期、退任時の取り扱いなども、雇用型とは異なる場合があります。
混合型
雇用関係を維持しながら、職務や報酬について役員に近い制度を適用する形態です。
実務では、肩書きだけで雇用型か委任型かを判断することはできません。契約書、就業規則、職務内容、勤務実態などを確認する必要があります。
また、執行役員という肩書きだけで労働基準法上の労働者性が否定されるわけではありません。
【2026年最新】執行役員の報酬・年収は部長より高い?
執行役員は部長よりも高い報酬を受け取るケースが多いものの、すべての企業に共通する年収基準はありません。
企業規模、担当事業、役位、契約形態、業績連動報酬の有無によって大きく変わります。
執行役員の年収に関する調査データ労務行政研究所が公表した「2023年役員報酬・賞与等の最新実態」では、従業員身分の執行役員について、年間報酬の平均額が紹介されています。
| 役職 | 年間報酬の平均 |
|---|---|
| 非役付の執行役員 | 1,593万円 |
| 常務執行役員 | 2,246万円 |
| 専務執行役員 | 3,058万円 |
この数値は2023年調査のものであり、2026年の全企業における平均年収を示すものではありません。また、従業員身分の執行役員を対象とした集計です。
それでも、役位によって報酬水準に大きな差が生じることが分かります。
2026年の報酬調査はどうなっている?人事院は2026年10月14日、令和8年民間企業における役員報酬調査の実施を公表しました。
調査期間は2026年10月15日から12月18日までで、東京23区内に本店を置く従業員500人以上の企業約1,900社が対象です。
執行役員の役名、職位、契約形態、年間報酬総額なども調査項目に含まれています。
2026年11月時点では調査期間中であり、令和8年調査の集計結果はまだ公表されていません。
したがって、2023年調査の数値を2026年の確定的な平均年収として扱うことはできません。
部長の年収との違い部長の年収も企業によって幅があります。
大企業の部長と中小企業の執行役員を比較した場合、部長の報酬が上回ることも考えられます。
比較するときは、基本給だけでなく次の項目も確認する必要があります。
- 年間賞与
- 役職手当
- 業績連動報酬
- 株式報酬
- 退職金
- 福利厚生
- 契約終了時の処遇
特に委任型執行役員では、従業員向けの賞与や退職金制度とは異なる報酬設計になっている場合があります。
【キャリア・昇進】部長から執行役員になるには?必要な能力と判断基準
部長から執行役員への昇進は、単に担当部署で高い実績を上げれば実現するものではありません。
執行役員には、部門単位の成果だけでなく、会社全体の利益や中長期的な成長を考える能力が大切です。
部長から執行役員への昇進で評価されるポイント特に重要なのは次の5点です。
1. 全社的な経営視点
自部門の利益だけでなく、他部署との連携や会社全体の収益性を考えられることが大切です。
2. 経営戦略を実行する能力
経営陣が決定した方針を具体的な事業計画に落とし込み、成果につなげる能力が必要です。
3. 財務・数字への理解
売上や利益だけでなく、キャッシュフロー、投資回収、コスト構造などを把握する力が重要になります。
4. 組織横断的なリーダーシップ
部門間の利害を調整し、複数の組織を同じ目標に向けて動かす力が大切です。
5. ガバナンスとリスク管理
法令遵守、内部統制、情報管理など、会社全体に関わるリスクを把握し、適切に対処できることも重要です。
2025年の経済産業省委託調査に見る組織改革経済産業省が公表した2025年2月のコーポレートガバナンス改革に関する調査報告書には、大企業の役員体制の見直し事例が掲載されています。
同報告書の企業事例47では、時価総額10兆円以上の東証プライム市場上場企業の事例として、上級執行役員を設置し、取締役会から上席執行役員会議へ一部の権限を委譲した取り組みが紹介されています。
加えて、上席執行役員と部門長職の兼務を解消し、それぞれの役割と責任を明確にする改革も実施されました。
この事例が示しているのは、執行役員への昇進が単なる肩書きの変更ではないということです。
企業によっては、部門長としての仕事から離れ、全社的な経営執行に専念する役割へ移行することもあります。
執行役員に向いている人・部長に向いている人執行役員に向いているのは、次のような人です。
- 会社全体の経営課題を考えることが得意
- 複数部門の利害調整ができる
- 事業戦略や投資判断に関心がある
- 大きな責任を引き受けられる
- 経営陣と現場の双方に働きかけられる
一方、部長に向いているのは、次のような人です。
- 特定分野の専門性が高い
- 現場の業務改善が得意
- 部下の育成や組織管理に強みがある
- 担当部門の成果を着実に伸ばせる
- 現場に近い立場で意思決定したい
もちろん、部長として専門性を深めるキャリアも十分に価値があります。執行役員への昇進だけが成功ではありません。
【よくある質問】執行役員と部長の違いに関するFAQ
Q1:執行役員と部長はどちらが偉いですか?
一般的には執行役員が部長より上位に位置づけられます。ただし、会社によって組織構造や職務権限が異なるため、必ずしもすべての企業で同じ序列になるわけではありません。
Q2:執行役員は会社法上の役員ですか?
執行役員という肩書き自体は会社法に規定されていません。会社が独自に設ける社内役職です。ただし、取締役を兼任している場合は、取締役として会社法上の責任を負います。
Q3:執行役員になると雇用契約はなくなりますか?
必ずしもなくなるわけではありません。雇用型、委任型、混合型などがあり、会社の契約制度によって異なります。任命時には契約書や就業規則を確認することが大切です。
Q4:執行役員と執行役は同じですか?
異なります。執行役員は会社独自の役職ですが、執行役は会社法で定められた指名委員会等設置会社の機関です。任命方法や法的責任、会社との契約関係も異なります。
Q5:部長から執行役員に昇進することはできますか?
可能です。部門の業績だけでなく、経営戦略の実行力、財務知識、組織横断的なマネジメント能力などが評価されます。ただし、昇進条件や選任手続きは企業によって異なります。
Q6:執行役員になると残業代は支給されなくなりますか?
肩書きだけで残業代の支給対象外になるわけではありません。労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、職務内容、権限、勤務時間の裁量、待遇などの実態に基づいて判断されます。
まとめ:【プロの結論】執行役員と部長の違いは権限・責任・経営への関与範囲
執行役員と部長の違いは、主に会社経営への関与範囲と業務執行の責任にあります。
執行役員は経営方針を実行する立場として、全社的な事業運営や複数部門の統括を担うことが多く、部長は担当部署の業務管理や人材育成、目標達成に責任を持ちます。
ただし、両者の上下関係や権限は会社ごとに異なります。また、執行役員という肩書きだけで会社法上の役員になるわけではありません。
2026年に企業の組織体制を理解するうえで、特に押さえておきたい判断基準は次の4つです。
1. 組織上の位置づけ: 組織図や指揮命令系統で誰の上位に置かれているか。
2. 権限の範囲: 予算、人事、投資、事業運営についてどこまで決裁できるか。
3. 契約形態: 雇用契約なのか、委任契約なのか。
4. 責任の内容: 部門の業績責任なのか、全社的な業務執行責任なのか。
役職名だけで判断すると、実際の社内序列や法的な立場を誤解する可能性があります。
執行役員への昇進を目指す人も、現在の組織で部長と執行役員の関係を確認したい人も、職務権限規程、任命規程、雇用契約、組織図を照らし合わせることが重要です。
肩書きの高さではなく、どの範囲の意思決定を担い、どの成果に責任を負うのか。それこそが、執行役員と部長を見分ける最も確かな基準です。
主な参照資料・根拠
- PwC Japan「コーポレートガバナンス体制および経営管理組織」
- 経済産業省「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた調査」(2025年2月)
- 厚生労働省「管理監督者」
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構「J-Net21」
- 労務行政研究所「2023年役員報酬・賞与等の最新実態」
- 人事院「令和8年民間企業における役員報酬(給与)調査の実施」(2026年10月14日)