今回のZoffの調査結果で最も注目すべきなのは、納品された4点のうち、問題が指摘された2点と、残る2点で写真の出所が異なっていたことです。
4点すべてが同じ問題だったわけではないZoffの公式発表によると、制作経緯は次のように分かれています。
- 問題が指摘された2点: 雑誌に掲載された写真を、モデル本人や撮影者、出版社などの権利者から許諾を得ずに参考にして制作。
- 残る2点: 江口氏の知人をモデルとし、その知人本人が撮影した写真をもとに制作。
また、無許諾で写真を参考にした経緯について、制作当時は広告代理店にもZoffにも報告されていなかったとされています。
つまり、単純に「江口氏のイラスト4点すべてに問題があった」という理解は正確ではありません。
トレースはすべて違法なのか?今回のニュースで頻繁に登場するのが「トレース」と「トレパク」という言葉です。
トレースとは、写真や資料などの輪郭、構図、形状をなぞって描く技法です。イラスト制作において、構図や人物の位置関係を決めるために利用されることがあります。
一方、「トレパク」はトレースと盗用を組み合わせたネット上の俗称です。
両者は同じ意味ではありません。
重要なのは、トレースという技法を使ったかどうかだけではなく、何を参考にし、その利用に必要な権利処理が行われていたかという点です。
Zoff自身も公式発表で、トレースや写真を参考にする行為そのものはイラスト表現の一つとして尊重されるべきだと説明しています。
同社が問題の本質として挙げたのは、制作過程における権利への配慮不足と、許諾確認・報告手続きの不十分さでした。
著作権と肖像権は別々に考える必要があるこの問題を理解するうえで、次の3つの権利を区別することが大切です。
1.写真の著作権
写真には、撮影者が創作した構図、光の使い方、被写体の配置などの表現が含まれます。
写真を参考にしたイラストが元写真の創作的な表現に依拠し、類似している場合には、著作権侵害が問題になる可能性があります。
2.肖像権・プライバシーに関する利益
写真に写っている人物には、自分の容姿を無断で利用されないことに関する利益があります。
写真が公開されているからといって、第三者が広告や商業イラストに自由に利用できるわけではありません。
3.パブリシティ権
著名人などの肖像や氏名が持つ経済的価値を保護する権利です。
一般の人物の写真利用に関する問題と、著名人の肖像を商業的に利用する問題では、法的な検討内容が異なります。
テレビ朝日の報道では、知的財産に詳しい東京理科大学の平塚三好教授が、元写真の構図やアングルへの依拠性、類似性などを踏まえて著作権侵害に当たる可能性を指摘しています。
もっとも、個別のイラストが最終的にどの権利を侵害するかは、写真とイラストの具体的な関係や利用状況などによって判断されます。Zoffの調査結果だけで、すべての作品について司法判断が確定したわけではありません。
【ネットの反応】Zoffの対応が評価された理由と江口寿史への批判

騒動が大きくなった背景には、作品の制作過程だけでなく、企業とクリエイターが問題にどう向き合ったかという点もあります。
ネット上の議論は、大きく3つの論点に整理できます。
1.Zoffの調査結果公表を評価する意見Zoffの10月24日の発表については、調査対象や確認結果、今後の方針を具体的に示した点が評価されました。
All Aboutの2025年10月31日の記事でも、Zoffのリリース内容を評価するSNS上の反応が取り上げられています。
企業として問題を曖昧にせず、何が確認され、どこに問題があったのかを説明したことが評価につながったと考えられます。
2.江口寿史本人の説明が遅かったことへの批判一方、江口氏本人の説明については、問題発覚から約3か月後の2025年12月30日だったこともあり、対応の遅さを指摘する意見がありました。
また、トレースという制作技法自体を説明することと、写真の被写体や権利者への配慮が不足していたことへの反省は、別々に受け止めるべきだという議論も生まれました。
ITmedia NEWSは、本人の説明内容とともに、SNS上で厳しい意見が出ていたことを報じています。
3.謝罪投稿の削除で再び議論に2026年3月には、前年12月30日の謝罪・説明投稿がX上で確認できなくなったことが報道され、再び批判が広がりました。
投稿が見当たらなくなった理由について、本人からの説明は確認されていません。
このため、投稿削除をめぐる批判と、削除理由を確定した事実として扱うことは分けて考える必要があります。
ネット上では、作品そのものへの評価と、制作時の権利処理や説明責任への評価が混在しています。
長年のファンにとって、江口氏の独特な絵柄や漫画史に残る作品への評価は簡単には変わらないでしょう。一方、商業広告を発注する企業にとっては、過去の実績だけでなく、制作過程の透明性も起用判断に関わる要素になります。
【噂の真相とプロの結論】誤解しやすいポイントを徹底検証
ここでは、Zoffと江口寿史のニュースをめぐって混同されやすい情報を整理します。
噂と確認できる事実の違い| よくある疑問・噂 | 確認できる事実 |
|---|---|
| Zoffのイラスト4点すべてが無許諾だった? | 無許諾で雑誌写真を参考にしたとの説明があったのは4点中2点 |
| 金井球氏がZoffのイラストのモデルだった? | 金井氏はルミネ荻窪のポスター問題で名前が挙がった人物。Zoffのモデルとは公式発表で特定されていない |
| トレースをすれば必ず著作権侵害になる? | トレースという技法だけで一律に判断されるわけではない |
| Zoffの補償問題は完全に解決した? | 公式発表では関係者間で協議中。その後の決着を示す発表は確認できない |
| 江口寿史は創作活動を終了した? | 2026年にも展覧会の開催案内などがあり、活動終了を示す事実は確認できない |
今回の問題は、一人のイラストレーターの制作手法だけに還元できません。
商業広告では、クリエイターが制作した作品を企業が受け取り、広告代理店や制作会社を経由して一般消費者に届けます。
この過程では、誰が写真を撮影したのか、誰が被写体なのか、どの範囲まで利用許諾があるのかという情報が、関係者間で共有されなければなりません。
特に重要なのは次の3点です。
第一に、参考資料の出所を記録すること。
インターネットや雑誌で見つけた写真を参考にする場合、撮影者や掲載媒体、利用条件を確認する必要があります。公開されている写真であっても、商用利用の許可があるとは限りません。
第二に、クリエイターだけに権利確認を任せないこと。
広告代理店と発注企業も、納品物の制作過程や権利処理について確認できる仕組みを設ける必要があります。今回のZoffの発表でも、制作過程の報告と権利許諾の確認手続きが課題として示されました。
第三に、作品の魅力と制作上の責任を切り分けること。
優れた画力や独自の表現があることと、第三者の権利に配慮した制作ができていることは、別の評価軸です。
江口氏の過去の漫画やイラストの文化的価値を認めることと、今回の制作過程を検証することは両立します。
この視点は、イラストレーターだけでなく、写真家、デザイナー、広告代理店、企業の広報担当者にも必要です。
【Zoffと江口寿史の関係】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:Zoffと江口寿史の炎上騒動は何が原因ですか?
2018年のZoffのキャンペーンに使用されたイラスト4点のうち、2点について、雑誌掲載写真を権利者の許諾を得ずに参考にして制作したと江口氏から説明があったことです。Zoffは2025年10月24日に調査結果を公表しました。
Q2:Zoffのイラストは全部撤去されたのですか?
公式発表では、対象イラストの制作経緯と調査結果、今後の権利管理方針が説明されています。4点すべてが同じ問題を抱えていたわけではありません。現在の個々の販促物の取り扱いについては、別途確認が必要です。
Q3:金井球氏はZoffのイラストのモデルだったのですか?
金井球氏は、ルミネ荻窪の「中央線文化祭」の告知ビジュアルをめぐって名前が挙がった人物です。Zoffの公式調査発表では、問題となったイラストのモデルは個人名で公表されていません。両者を混同しないことが大切です。
Q4:江口寿史は2026年現在も活動しているのですか?
2026年には京都・思文閣での展覧会「江口寿史のこれまでとこれから。」の開催案内が公表されています。少なくとも、創作活動の終了が発表されたわけではありません。
Q5:Zoffと江口寿史の補償問題は決着しましたか?
Zoffの2025年10月24日の発表では、江口氏、広告代理店、関係者間で補償について協議すると説明されています。2026年11月2日時点で、その最終的な決着や金額を示す追加の公式発表は確認できません。
Zoffと江口寿史氏をめぐる騒動は、2018年の広告キャンペーンに使用されたイラストの制作過程が、2025年10月に改めて検証されたことから広がりました。
押さえておきたい事実は次のとおりです。
- 2018年にZoffと江口寿史氏が広告キャンペーンでコラボレーションした。
- 使用されたイラスト4点のうち2点について、雑誌写真の権利者から許諾を得ずに参考にしていたと江口氏が説明した。
- Zoffは2025年10月24日に調査結果を公式発表し、権利確認体制の見直しを表明した。
- 江口氏は同年12月30日に本人の見解を公表したが、2026年3月には投稿が確認できなくなったと報道された。
- 2026年11月時点で、Zoffの補償協議の最終結果は公式には確認できない。
今回のニュースを理解するうえで、最も大切なのは、トレースという技法の是非と、第三者の写真を利用する際の権利処理は別の問題であるということです。
江口寿史氏が長年築いてきた漫画家・イラストレーターとしての実績と、今回の広告制作における責任は、それぞれ分けて評価する必要があります。
また、Zoffのような企業にとっても、著名クリエイターとのコラボレーションを成功させるには、作品の完成度だけでなく、制作過程の透明性や権利管理の徹底が欠かせません。
今後注目したいのは、Zoffが公表した補償協議の行方と、江口氏が今後どのような制作姿勢を示していくかという2点です。2026年以降も、この問題は広告業界の権利管理とクリエイターの責任を考える事例として注目されます。