トレパクとは、「トレース(Trace)」と「パクリ」を組み合わせたネット上の俗語で、他人のイラストや写真を無断でなぞったり、写し取ったりして、自分の作品として発表する行為を指します。単なるトレース技法とは異なり、他人の創作物を無断で利用し、あたかも自分のオリジナル作品であるかのように公開する点が問題視されます。
ただし、トレースや模写をしただけで、必ず著作権侵害になるわけではありません。判断の中心となるのは、元の作品に依拠しているかという「依拠性」と、著作物の創作的な表現が共通しているかという「類似性」です。2025年に発生した漫画家・江口寿史氏のイラストをめぐる問題や、Zoffによる調査結果も、この問題を考えるうえで重要な事例となりました。2026年11月現在の法制度と裁判例を踏まえ、練習目的の模写から商業利用まで、どこに法的な境界線があるのかを解説します。
【基礎知識】トレパクとは?意味・由来とトレースとの違い

トレパクは、次の2つの言葉を組み合わせた表現です。
- トレース(Trace): 元となる写真やイラストを下に置き、輪郭や線をなぞって描き写す技法。
- パクリ: 他人の作品やアイデアなどを盗用することを意味する俗語。
つまり、トレパクとは、他人の作品をトレースし、その創作的な表現を無断で利用して、自分の作品として発表する行為を批判的に表す言葉です。
もともとトレースは、イラストや漫画、デザイン、アニメーションなどで広く使われている制作技法です。
人体の構造を理解するために写真を参考にしたり、複雑なポーズを正確に描いたりする際にも利用されます。
そのため、トレースそのものとトレパクは同じ意味ではありません。
問題になるのは、元の作品の権利を無視して利用したり、他人の創作的な表現を自分のオリジナルであるかのように発表したりするケースです。
トレパクと著作権侵害は同じなのか?ここは誤解されやすいポイントです。
トレパクはネット上で使われる評価的な言葉であり、著作権侵害は法律上の判断です。
例えば、他人の写真を参考にしたイラストでも、次のような事情によって結論は変わります。
- 自分で撮影した写真をトレースした。
- 権利者から利用許諾を得た写真を使った。
- 著作権の保護期間が終了した作品を利用した。
- 他人の写真を無断でなぞり、元の写真の創作的な表現を残した。
- 他人の作品と似ているものの、独立して制作した。
このように、制作方法だけでなく、利用した素材の権利関係や完成作品の表現が重要になります。
文化庁も著作権に関する解説で、著作権は作品の創作的な表現を保護するものであり、アイデアそのものと区別されることを説明しています。
【違いを比較】トレース・模写・参考資料・トレパクはどこが違う?
トレース、模写、参考資料の利用は、イラスト制作で混同されやすい言葉です。
しかし、制作方法と著作権上の問題は、それぞれ分けて考える必要があります。
4つの制作方法を比較答えは、どちらも一律に違法になるわけではない、です。
例えば、好きなイラストレーターの作品を自宅で見ながら模写することと、その模写作品をSNSに投稿して販売することでは、法律上の扱いが異なります。
著作権法第30条には、個人的または家庭内などの限られた範囲で利用するための複製を認める「私的使用のための複製」という規定があります。
また、一定の私的利用に伴う翻案などについても著作権法上の制限規定が設けられています。
一方、SNSへの投稿は一般の人に向けた公開です。自宅での練習と同じ感覚で、他人の作品をなぞった画像をインターネットに公開できるわけではありません。
出典を明記すればトレパクしてもよい?これもよくある誤解です。
元の作品の作者名や出典を記載しても、それだけで無断利用が適法になるわけではありません。
著作権法には引用が認められる場合がありますが、引用には公正な慣行や引用目的上の必要性、主従関係、明確な区別などの条件があります。
単に「参考にした作品はこちら」と書くだけでは、引用の要件を満たしたことにはなりません。
特に、他人のイラストをそのままなぞって自分の作品として販売する行為は、出典を記載しただけでは正当化できないと考えるべきです。
【法律解説】トレパクはどこから違法?依拠性・類似性と著作権法21条・27条
トレパクが著作権侵害に該当するかを判断する際、中心になるのが「依拠性」と「類似性」です。
この2つは、著作権侵害を理解するうえで欠かせない法律上の考え方です。
① 依拠性:元の作品を参考にして制作したか依拠性とは、既存の著作物に接し、それを基にして新しい作品を制作したという関係を指します。
例えば、次のようなケースです。
- SNSで公開されていたイラストを保存した。
- 雑誌に掲載された写真を制作資料として使用した。
- 元の画像をデジタルレイヤーの下に配置した。
- 写真の輪郭や人物のポーズをなぞって制作した。
こうした事情は、依拠性を判断するうえで重要な材料になります。
ただし、元の作品を見たという事実だけで著作権侵害が確定するわけではありません。
既存の作品を知っていても、保護される創作的な表現を利用していなければ、著作権侵害が成立しない場合があります。
反対に、元の作品を知らず、独立して制作した場合には、原則として依拠性が認められません。
② 類似性:創作的な表現が共通しているか類似性は、単に2つの作品が似ているかどうかを比べるだけではありません。
重要なのは、元の著作物にある創作的な表現が、新しい作品にも残っているかどうかです。
例えば、次のような共通点が問題になります。
- 人物の独特なポーズや身体の配置
- 特徴的な構図やカメラアングル
- 独自性のある背景や小物の配置
- 特徴的な輪郭やシルエット
- 光と影の表現や色彩の組み合わせ
一方、一般的な人物の立ち姿や、ありふれた髪型、基本的な顔のパーツの配置など、創作性が認められない部分だけが共通していても、それだけでは侵害になりません。
最高裁判所の2001年6月28日判決、いわゆる「江差追分事件」は、翻案の判断について重要な基準を示しました。
既存の著作物に依拠していても、共通しているのがアイデアや事実、創作性のない部分にすぎない場合には、翻案に当たらないという考え方です。
③ 著作権法21条:複製権の侵害著作権法第21条は、著作者が自分の著作物を複製する権利を専有すると定めています。
複製とは、既存の著作物を有形的に再製することです。
写真をそのままコピーする行為だけでなく、手描きで写し取る行為も、状況によっては複製に該当します。
そのため、他人のイラストをなぞって、元の創作的な表現をそのまま再現すれば、複製権侵害となる可能性があります。
④ 著作権法27条:翻案権の侵害著作権法第27条は、著作物を翻訳・編曲・変形・翻案する権利を定めています。
例えば、写真をもとに次のような作品を制作した場合です。
- 写真をイラストに描き直す。
- 元の絵を大幅にデフォルメする。
- 色彩や画風を変えて別の作品にする。
- 人物の輪郭や構図を維持しながら別の表現に変更する。
元の写真と完成したイラストの見た目が異なっていても、元の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感じ取れる場合には、翻案権侵害となる可能性があります。
また、SNSで公開すれば、公衆送信権(第23条)など別の権利も問題になり得ます。
文化庁の令和8年度版「著作権テキスト」でも、複製権や翻案権は独立した著作権の内容として説明されています。
トレパクの法的責任と罰則著作権侵害が成立した場合、責任は民事と刑事に分けて考えられます。
民事上の責任
権利者は、状況に応じて次の請求を行うことができます。
- 差止請求: 無断利用や公開を停止させる。
- 損害賠償請求: 著作権侵害によって生じた損害の賠償を求める。
- 不当利得返還請求: 権利侵害によって得た利益の返還を求める。
- 名誉回復措置: 著作者人格権が侵害された場合などに、謝罪広告等を求める。
これらは著作権法第112条、第114条、第115条などに関係する救済手段です。
刑事上の責任
著作権法第119条第1項では、通常の著作権侵害について、次の罰則が定められています。
10年以下
個人に対する拘禁刑
1,000万円以下
個人に対する罰金
3億円以下
一定の場合の法人に対する罰金
著作権法第119条・第124条などに基づく。個人の刑事罰は拘禁刑と罰金の併科もあり得る。
なお、通常の著作権侵害罪は原則として親告罪であり、権利者による告訴が必要です。一部の例外もあります。
もちろん、ネットでトレパク疑惑を指摘された人が、直ちに逮捕されたり刑事罰を受けたりするわけではありません。
実際に著作権侵害が成立するか、権利者がどのような法的手続きを取るかなど、個別の事情によって結果は変わります。
【判例・裁判事例】トレパクの違法性はどのように判断される?
トレパクの法的な境界線を理解するには、実際の裁判例を見ることが有効です。
特に参考になるのが、写真をイラストに描き直した事例と、トレパク疑惑を公表した側が名誉毀損を問われた事例です。
① 祇園祭写真事件:写真を水彩画にしても翻案権侵害- 判決:東京地方裁判所・2008年3月13日
- 事件:平成19年(ワ)第1126号
この事件では、祇園祭を撮影した写真を無断で水彩画に描き直し、広告やポスターなどに利用したことが争われました。
裁判所は、写真と水彩画では表現方法が違っていても、全体の構図や神官、神輿の配置関係など、写真の創作的な特徴が水彩画に残っている点を重視しました。
その結果、水彩画について写真の翻案権侵害が認められました。
この判例から分かるのは、写真を手描きのイラストに変換したからといって、著作権侵害を免れるわけではないということです。
② コーヒーを飲む男性事件:依拠していても侵害にならない場合がある- 判決:東京地方裁判所・2018年3月29日
- 事件:平成29年(ワ)第672号等
この事件では、インターネットで見つけた写真を参考にして、男性がコーヒーを飲む姿を描いたイラストが問題になりました。
イラストの制作者は写真を参考にしていたため、依拠性は認められました。
しかし、裁判所は、写真とイラストの表現を比較しました。
その結果、両者に共通するのは主に人物の頭部から胸部にかけての輪郭や手、コーヒーカップの部分であり、写真の光線、色彩、背景との関係など、創作的な特徴は十分に再現されていないと判断しました。
このため、複製権・翻案権の侵害は認められませんでした。
つまり、元の写真を参考にした事実があっても、著作権侵害が必ず成立するわけではないことを示した事例です。
③ 2023年のトレパク投稿名誉毀損事件:検証画像だけでは断定できない- 判決:東京地方裁判所・2023年10月13日
- 事件:令和2年(ワ)第25439号等
この裁判は、トレパク問題を考えるうえで特に重要です。
ある漫画家兼イラストレーターが、別のイラストレーターについて、他人の作品をトレースして自作として発表しているという趣旨の投稿を行いました。
投稿された検証画像には、2つのイラストを重ね合わせた際に線が一致している部分がありました。
しかし、裁判所は、問題となったイラストの制作時期やアクセス可能性を検討しました。
具体的には、疑惑の対象となったイラストの一部は、指摘された元作品より先に制作されていました。また、相手方が入手できない環境にあった作品もありました。
加えて、人物の顔や身体の構造には共通する特徴があり、トレースしていなくても線が重なる場合があると判断されました。
そのため、線が一致していることだけではトレースの証明にならないとされました。
結果として、投稿者には314万円の損害賠償と対象投稿の削除が命じられました。
この裁判で注目すべきなのは、トレパクをめぐる問題では、疑惑をかけられた側だけでなく、疑惑を発信する側にも法的責任が生じ得るという点です。
検証画像を公開するときには、元作品の制作時期やアクセス可能性などを確認しなければ、誤った疑惑を広めてしまう危険があります。
【2025~2026年最新】江口寿史氏のトレパク疑惑とZoffの調査結果
2025年に大きな話題となったのが、漫画家・イラストレーターの江口寿史氏をめぐる写真の無断利用問題です。
この問題は、トレースという制作技法の是非だけでなく、商業イラストにおける素材の権利処理や、企業の確認体制にも注目が集まるきっかけとなりました。
発端はルミネ荻窪のイベントポスター2025年9月、ルミネ荻窪が主催するイベント「中央線文化祭」の告知ビジュアルに、江口氏が制作した女性の横顔を描いたイラストが使用されました。
その後、描かれた女性のモデルとされた金井球氏から指摘があり、元となったSNS上の写真が無断で参考にされた問題が明らかになりました。
江口氏は2025年10月3日のSNS投稿で、Instagramに流れてきた写真を参考に制作した経緯を説明しました。
その後、本人に謝罪し、弁護士を通じた協議で双方合意のうえ和解したと、12月30日の本人の説明を報じたスポニチが伝えています。
Zoffの調査結果:4点中2点で無許諾の写真利用を説明2025年10月24日、メガネブランドのZoffを展開する株式会社インターメスティックは、江口氏が制作した過去のイラストについて調査結果を公表しました。
対象となったのは、2018年に実施されたキャンペーンで使用された4点のイラストです。
調査結果の要点は次のとおりです。
- 納品された4点のうち、SNS上で指摘された2点について、雑誌掲載写真を権利者の許諾を得ずに参考にして制作したとの江口氏の説明があった。
- 制作当時、写真の利用経緯について広告代理店やZoffへの報告はなかった。
- 残り2点は、江口氏の知人をモデルとし、その本人が撮影した写真を基に制作されたと確認された。
- モデル本人、所属事務所、出版社には経緯を説明し、謝意を伝えた。
- 補償については江口氏、広告代理店、関係者間で協議することになった。
Zoffは、トレースや写真を参考にする表現手法そのものを否定するのではなく、権利許諾の確認や制作過程の報告が不十分だったことを問題として説明しました。
デニーズでも2023年制作のイラストに問題が判明2025年11月7日には、レストランチェーンのデニーズも江口氏のイラストに関する調査結果を公表しました。
同社によると、2023年9月に納品されたメニューブックやポスターのイラストについて、江口氏から、人物部分は商業雑誌に掲載された写真を引用して制作したとの説明がありました。
その際、権利関係の許諾が必要であるという認識がなかったとされています。
一方、2024年9月に納品されたイラストについては、江口氏から特定の写真からの引用はないとの回答があったと発表されました。
デニーズは、制作物に対する確認体制に不備があったとして謝罪し、広告デザインの制作過程や管理体制を見直す方針を示しました。
2025年12月30日、江口氏が一連の問題について説明2025年12月30日、江口氏は自身のXで一連の騒動について説明しました。
主な内容は次のとおりです。
1. トレースは制作初期の「アタリ」程度だったとの説明
江口氏は、自身の制作工程ではトレースを下描きの最初期に行い、構図やレイアウト、トリミングを決めるための作業として使用していたと説明しました。
2. 雑誌の写真を資料として認識していた
作品集や写真集として出版された写真を利用することは問題だと認識していた一方、雑誌に掲載された写真については、情報や資料として扱っていたという考えを明らかにしました。
3. 権利への配慮が不足していたことを反省
写真に写る本人が知らないところで、自分の姿や輪郭に似たイラストが描かれることに不安や不快感を覚える可能性があるとして、配慮が足りなかったと振り返りました。
また、中央線文化祭のポスターについては、モデル本人に謝罪し、弁護士を通じて双方合意のうえ和解したと説明しました。
2026年11月現在、問題はどうなっている?2026年11月2日時点で整理すると、次のようになります。
| 時期 | 出来事 | 公表された内容 |
|---|---|---|
| 2025年9月 | 中央線文化祭の告知イラスト | 写真の無断利用が問題化 |
| 2025年10月 | Zoffが調査結果を発表 | 4点中2点について無許諾での写真利用を説明 |
| 2025年11月 | デニーズが調査結果を発表 | 2023年のイラストで無許諾の写真引用を確認 |
| 2025年12月30日 | 江口氏が本人の見解を公表 | 制作手法や権利への認識について説明・謝罪 |
| 2026年11月 | 現在 | Zoffの公表資料では補償協議の詳細な最終結果は示されていない |
重要なのは、無断で写真を参考にしたという制作上の事実と、裁判所による著作権侵害の確定判断は別であるということです。
Zoffの発表は調査結果と今後の対応についての企業発表であり、江口氏に対する著作権侵害の確定判決ではありません。
また、Zoffの公表文では、補償について関係者間で協議すると説明されていますが、金額や最終的な合意内容までは明らかにされていません。
この問題が示したのは、著名なクリエイターであっても、制作に使用した写真の権利関係を確認する必要があるということです。
同時に、広告主や制作会社にも、納品された作品の権利関係を確認する責任があるという点です。
【検証方法】トレパクの見分け方・検証画像と炎上する理由
SNSでトレパク疑惑が浮上すると、元画像と完成したイラストを並べたり、半透明にして重ねたりした検証画像が投稿されることがあります。
こうした画像は比較の参考になりますが、法律上の証拠として十分かどうかは別問題です。
トレパクの検証で確認したい5つのポイント① 輪郭や線の一致
人物の顔、髪型、肩、腕、手足などの輪郭が複数の場所で一致しているかを確認します。
特に、単なる人体の基本構造では説明しにくい特徴的な線が重なる場合は、参考にした可能性を検討する材料になります。
② 構図とポーズの一致
人物の向き、首の角度、身体の傾き、手の位置などを確認します。
単純に同じポーズというだけではなく、複数の特徴が同じ配置で再現されているかがポイントです。
③ 背景や小物の配置
写真に写る家具、建物、アクセサリーなどの位置関係も比較します。
人物だけでなく背景まで特徴的に一致していれば、判断材料が増えます。
④ 元画像の公開時期と作品の制作時期
非常に重要なのが時間的な前後関係です。
元画像が公開された時期と、イラストが制作された時期を比較します。
元画像が制作後に初めて公開されたのであれば、その画像を参考にして描いたという主張には疑問が生じます。
⑤ 制作過程を示す資料
制作データ、下描き、レイヤー構成、保存日時、参考資料の記録なども確認材料になります。
完成画像だけでは分からない制作過程が明らかになることもあります。
検証画像の重ね合わせだけでトレパクと断定できない理由画像を重ねて線が一致した場合でも、それだけで盗作を証明したことにはなりません。
2023年の名誉毀損事件でも、線が重なっていたにもかかわらず、制作時期やアクセス可能性を検討した結果、特定の作品をトレースしたとは認められませんでした。
また、人物の顔は骨格やパーツの配置に一定の共通性があります。
そのため、顔の輪郭や目、鼻、口の位置が似ているだけでは、トレースした証拠として不十分な場合があります。
加えて、画像を拡大・縮小したり、反転させたり、部分的に切り貼りしたりすると、偶然の一致を意図的な一致に見せてしまう危険もあります。
検証画像は疑惑を検討するための資料であって、それだけで法的責任を確定するものではありません。
なぜトレパク問題はSNSで炎上するのか?トレパク問題が大きな批判を集める背景には、著作権だけでは説明できない要素があります。
主な理由は4つです。
1. オリジナリティへの信頼が失われる
イラストレーターの作品は、その人自身の技術や発想、創作性によって評価されます。
他人の作品を無断で利用して自作として発表したと受け取られれば、これまでの実績や評価まで疑問視されることがあります。
2. 元の作者に利益が還元されない
写真家やイラストレーターは、時間や技術を使って作品を制作しています。
その作品を無断利用したイラストが商業広告や商品に使われれば、元の作者が本来得られたはずの利用料や機会に影響する可能性があります。
3. モデル本人の気持ちや肖像に関する問題
写真には、著作権を持つ撮影者だけでなく、被写体となった人物も存在します。
本人が知らないうちに自分の姿が広告や作品に使われれば、不安や不快感を覚える場合があります。
著作権とは別に、肖像権やプライバシー、パブリシティ権などが問題になるケースもあります。
ただし、人物を特定できるか、利用目的や態様はどうかなどによって判断は異なります。
4. 商業利用によって問題が拡大する
個人の練習と、企業の広告や商品として利用することでは、社会的な影響が大きく異なります。
企業の看板や商品パッケージに使用された作品で無許諾利用が判明すれば、広告主の信用やブランドイメージにも影響します。
江口寿史氏のZoff問題やデニーズの調査結果は、まさにこの制作・発注・権利管理の問題が表面化した事例です。
【プロの結論】本当に見るべきなのは「似ているか」だけではないトレパク問題を判断する際、最初に見るべきなのは線の一致だけではありません。
重要なのは、次の3つです。
- 制作の経緯: 元作品にアクセスし、それを参考にした事実があるか。
- 表現の共通性: 元作品の創作的な特徴が新しい作品に残っているか。
- 利用の状況: 許諾の有無、公開方法、商業利用の有無などはどうなっているか。
そして、疑惑を指摘する側にも同じ慎重さが大切です。
2023年の裁判例が示すように、不確かな検証画像を根拠に特定の人物を盗作者と断定すれば、名誉毀損という別の法的問題が生じる可能性があります。
クリエイターを守ることと、正当な批判を行うことは対立しません。事実に基づく検証こそが、創作活動の信頼を守るための基本です。
【よくある質問】トレパクとは何か・著作権に関するFAQ
Q1:トレパクは必ず著作権侵害になりますか?
A1:必ずしもそうではありません。元の作品への依拠性と、創作的な表現の類似性などが判断されます。自分で撮影した写真や利用許諾を得た素材をトレースすることは、原則として問題ありません。
Q2:イラストの練習で他人の作品を模写するのは違法ですか?
A2:自宅などで個人的に楽しむ範囲の練習であれば、私的使用などの著作権制限規定が適用される場合があります。ただし、模写した作品をSNSで公開したり、販売したりする場合は別の判断になります。
Q3:トレパクの検証画像をSNSに投稿しても問題ありませんか?
A3:比較画像の公開自体が直ちに違法になるわけではありませんが、元画像の著作権や、指摘対象者の名誉・信用に注意する必要があります。事実関係が十分に確認できていないのに盗作と断定すると、名誉毀損が成立する可能性があります。
Q4:写真をイラストに描き直せば著作権侵害を回避できますか?
A4:回避できるとは限りません。写真の創作的な表現を維持したままイラスト化した場合、著作権法27条の翻案権侵害が問題になる可能性があります。
Q5:出典や写真家の名前を書けば許可は不要ですか?
A5:いいえ。出典を記載することと、著作権者から利用許諾を得ることは別です。法律上の引用などの例外に該当しない限り、原則として許諾が必要です。
Q6:トレパクで逮捕されることはありますか?
A6:悪質な著作権侵害については刑事責任が問われる可能性があります。ただし、疑惑が浮上しただけで逮捕されるわけではありません。権利侵害の成立や告訴の有無など、法律上の要件を満たす必要があります。
まとめ:トレパク問題を正しく理解するための判断基準
トレパクとは、他人の写真やイラストを無断でなぞり、自作として発表する行為を指すネット上の俗語です。
しかし、トレースや模写という制作技法そのものが禁止されているわけではありません。
著作権侵害の判断では、主に次のポイントが重要になります。
- 元の著作物に依拠して制作したか。
- 元作品の創作的な表現が残っているか。
- 著作権者から利用許諾を得ていたか。
- 公開や販売など、どのような方法で利用したか。
2025年の江口寿史氏をめぐる問題では、Zoffが4点中2点について無許諾での写真利用に関する説明を公表し、デニーズも別の制作物について調査結果を発表しました。
これらの事例は、クリエイター個人の制作技法だけでなく、写真の権利処理、広告代理店の確認、企業の制作管理まで含めて考える必要性を示しています。
最も大切なのは、トレースを禁止することではなく、他人の創作物を利用するときに、その権利と制作の背景を尊重することです。
イラストを描く人は、利用許諾を得た素材や自分で撮影した写真を活用し、制作過程を記録しておくことが有効です。
また、トレパク疑惑を検証する人は、重ね画像だけで判断せず、制作時期や元画像へのアクセス可能性、実際に共通する表現を確認する必要があります。
創作する側にも、作品を評価する側にも、正確な著作権の知識が求められています。