憲法改正は、国会で賛成多数になれば直ちに実現するものではない。日本国憲法第96条に基づき、衆議院と参議院のそれぞれで総議員の3分の2以上の賛成を得て国会が発議し、その後、国民投票で過半数の賛成を得る必要がある。国民の承認を得た後には、天皇が国民の名で憲法改正を公布するという、複数の段階を踏む仕組みだ。
2026年11月2日時点では、憲法審査会での議論に加え、国民投票の実務を改善する法改正も施行されている。特に2026年7月31日に公布された改正法(令和8年法律第73号)は、同年10月31日に施行された。この記事では、憲法改正原案の提出から国会発議、発議後60日から180日以内の国民投票、成立要件、公布までを順番に整理し、2026年の最新動向も解説する。
【まず全体像】憲法改正の流れは6つの段階で理解できる

日本の憲法改正手続は、日本国憲法第96条を基本としている。最大の特徴は、国会による発議と国民による承認という二段階の判断が必要なことだ。
法律の制定とは異なり、国会で可決されただけでは憲法は改正されない。国会議員だけでなく、最終的には国民自身が投票によって改正の可否を決める。
一般的な手続の流れは、次のように整理できる。
- 憲法改正原案の作成:改正を目指す条文や内容を具体化する。
- 憲法審査会での審査:衆議院・参議院の憲法審査会などで改正内容を調査・審議する。
- 各議院での審議・採決:衆議院と参議院それぞれで総議員の3分の2以上の賛成を得る。
- 国会による発議:両院で最後の可決が成立すると、国会が憲法改正を発議して国民に提案する。
- 国民投票:発議から60日以後180日以内に国民投票を実施し、過半数の賛成を得る。
- 天皇による公布:国民の承認を得た憲法改正を、天皇が国民の名で公布する。
ここで押さえておきたいのは、憲法改正の発議と憲法改正の成立は同じ意味ではないという点だ。
発議は国会が国民に改正案を提示する段階であり、その後の国民投票で承認されなければ改正は成立しない。国会の判断だけで憲法を変更できないよう、国民に最終判断を委ねる制度になっている。
この仕組みは、日本国憲法第96条第1項と第2項に明記されている。第1項が国会発議と国民投票、第2項が承認後の公布を定めている。
【原案審査の仕組み】衆議院憲法審査会・参議院憲法審査会の役割とは?
憲法改正の議論が進む際に重要な役割を担うのが、衆議院憲法審査会と参議院憲法審査会だ。
両審査会は、国会法第102条の6に基づいて各議院に設置されている。日本国憲法や関連する基本法制について幅広く調査し、憲法改正原案や国民投票に関する法律案などを審査する機関である。
憲法審査会は何をする機関なのか憲法審査会の仕事は、単に改正に賛成か反対かを議論することではない。
例えば、改正を検討する条文について、現在の制度で対応できる問題なのか、憲法そのものを変更する必要があるのか、改正によって他の条文との整合性に問題が生じないかなど、多角的な検討を行う。
主な役割は次のとおりだ。
- 日本国憲法と関連する基本法制の調査
- 憲法改正原案の審査
- 憲法改正の発議に関する手続の検討
- 国民投票制度に関する法律案の審査
- 必要に応じた他院の憲法審査会との合同審査
国会法第102条の7では、憲法審査会自身が憲法改正原案などを提出することも認められている。
憲法改正原案は誰が提出できる?憲法改正原案の提出には、国会法第68条の2による特別な賛成者数の条件が設けられている。
- 衆議院:議員100人以上の賛成
- 参議院:議員50人以上の賛成
これは一般的な法律案の提出要件とは異なる、憲法改正原案に関する特別なルールだ。
また、国会法第68条の3では、憲法改正原案を提出する際、内容において関連する事項ごとに区分することが定められている。
なお、憲法審査会が自ら原案を提出する場合と、国会議員が原案を提出する場合では、法的な提出手続に違いがある。したがって、必ず憲法審査会が先に原案を提出しなければならないという理解は正確ではない。
実際の審議では、原案の提出経路や議院の手続に応じて、審査会での審議、本会議での採決などが進む。
衆議院憲法審査会の公式資料でも、国会法第102条の6・第102条の7に基づく審査会の権限が整理されている。
【国会発議の条件】各議院の総議員の3分の2以上とは?
憲法改正の流れで最も重要な関門が、国会発議に必要な賛成数だ。
日本国憲法第96条第1項は、憲法改正について、各議院の総議員の3分の2以上の賛成によって国会が発議すると定めている。
ここでいう「各議院」とは衆議院と参議院の両方を指す。片方だけで条件を満たしても、憲法改正の発議には至らない。
出席議員の3分の2ではない点に注意特に間違えやすいのが、賛成数の分母だ。
必要なのは、その日に出席した議員の3分の2ではなく、各議院の総議員の3分の2以上である。欠席や棄権があれば、必要な賛成数を確保することは難しくなる。
加えて、衆議院と参議院で改正原案の内容が異なる場合には、両院の調整が必要になる。憲法改正原案については、通常の法律案とは異なり、衆議院の再可決によって参議院の反対を覆す仕組みは適用されない。
憲法改正手続に関係する制度・機関の関係一覧各制度がどの段階で関係するのかを整理すると、手続の全体像が分かりやすくなる。
| 制度・機関 | 根拠・条件 | 役割と次の段階との関係 |
|---|---|---|
| 日本国憲法第96条 | 各議院の総議員の3分の2以上 | 国会発議と国民投票による承認を定める基本規定 |
| 衆議院憲法審査会 | 国会法第102条の6・第102条の7 | 憲法改正原案の調査・審査や提出を担う |
| 参議院憲法審査会 | 国会法第102条の6・第102条の7 | 参議院側で憲法改正原案などを調査・審査する |
| 憲法改正原案 | 国会法第68条の2・第68条の3 | 議員提出の場合は衆100人以上、参50人以上の賛成が必要 |
| 国会発議 | 国会法第68条の5 | 両院で最後の可決があった時点で発議・国民への提案となる |
| 憲法改正国民投票法 | 第2条・第3条・第126条 | 投票日程、投票権、承認に必要な賛成数などを規定する |
| 国民投票広報協議会 | 国会法第102条の11など | 発議後、改正案や賛否双方の意見を国民に周知する |
| 天皇による公布 | 日本国憲法第96条第2項 | 国民の承認を得た改正を国民の名で公布する |
特に混同しやすいのが、国会法第68条の2と第68条の5の違いである。
第68条の2は議員が憲法改正原案を提出するための賛成者数を定めた規定だ。一方、第68条の5は、両議院で最後の可決があった場合、その可決をもって国会が憲法改正を発議し、国民に提案したものとする規定である。
つまり、原案を提出するための条件と、憲法改正を国民に提案するための条件は別々に存在している。
この区別を理解しておくと、ニュースで「憲法改正案を提出」「憲法審査会で可決」「国会が発議」といった表現が登場したとき、それぞれの進捗を正しく判断できる。
【国民投票の流れ】発議後60日〜180日以内・18歳以上・過半数の条件
国会で憲法改正原案が可決され、正式に発議されると、次は国民投票の段階に進む。
この手続を具体化しているのが、2007年に成立した「日本国憲法の改正手続に関する法律」、一般に憲法改正国民投票法・国民投票法と呼ばれる法律だ。
国民投票の期日は発議後60日以後180日以内国民投票法第2条では、国民投票を国会が憲法改正を発議した日から起算して、60日以後180日以内に実施すると定めている。
投票日は、この期間内で国会の議決によって決定する。
発議された翌日に投票することも、180日を超えてから投票することも認められていない。国民が改正内容を理解し、賛否を判断するための準備期間を確保する制度だ。
また、国会法第68条の6では、国民投票の期日を発議後速やかに国会の議決で定めることとしている。
投票できるのは18歳以上の日本国民国民投票法第3条では、日本国民で年齢満18年以上の者に投票権を認めている。
つまり、投票できるのは18歳以上の日本国民であり、18歳未満の人や日本国籍を持たない外国人は対象にならない。
投票権年齢は、かつての制度変更を経て現在の18歳以上に統一されている。選挙権年齢と同様に、若い世代も憲法改正の判断に参加できる仕組みだ。
過半数の賛成とは具体的にどういう意味?国民投票で憲法改正が承認されるには、賛成票が投票総数の2分の1を超えなければならない。
国民投票法第98条第2項では、投票総数を賛成票と反対票の合計として定義している。したがって、白票などの無効票は過半数を計算する際の分母に含まれない。
例えば、賛成票が510万票、反対票が490万票だった場合、投票総数は1,000万票となり、賛成票は51%を占める。この場合は国民の承認があったものと判断される。
一方、賛成票と反対票が500万票ずつであれば、賛成票は2分の1を超えていないため、承認されたことにはならない。
もう一つ重要なのは、法律上、国民投票に最低投票率の規定が設けられていない点だ。
投票率が一定水準に達しなければ投票自体が無効になるという制度ではない。あくまで賛成票と反対票の合計を基準に、賛成票が過半数を超えるかどうかで判断する。
国民投票広報協議会が情報を周知する国会発議後には、国会法第102条の11に基づき、国民投票広報協議会が設置される。
同協議会は、衆議院と参議院から選ばれた委員で構成され、国民投票に関する広報を担当する。
主な役割は、憲法改正案の内容や要旨、新旧対照表などを分かりやすく整理し、改正に賛成する意見と反対する意見を掲載した国民投票公報を作成することだ。
国民投票法第14条では、改正案の説明を客観的・中立的に行い、賛成意見と反対意見を公正かつ平等に扱うことが求められている。
国民が判断するためには、改正案の内容だけでなく、改正によって何が変わるのか、どのような問題が想定されるのかを理解できる環境が欠かせない。
国民の承認後は天皇が憲法改正を公布する国民投票で賛成票が過半数を超え、改正が承認されると、憲法改正の成立に向けた最後の段階に進む。
日本国憲法第96条第2項には、国民の承認を得た憲法改正について、天皇が国民の名で、この憲法と一体を成すものとして直ちに公布すると定められている。
ここで重要なのは、天皇が改正内容の是非を判断するわけではないということだ。
天皇の役割は、憲法に定められた国事行為として公布することであり、改正の政治的な判断は国会と国民によって行われる。
なお、公布は憲法改正の内容を正式に公にする手続である。公布後の具体的な施行時期や経過措置については、改正の内容や附則などに応じて整理されることになる。
【2026年最新】憲法改正手続と国民投票法は何が変わった?
2026年の重要な動きは、憲法改正そのものの発議要件が変更されたことではなく、国民投票を実施する際の投票環境や広報方法が見直されたことだ。
令和8年法律第73号が2026年10月31日に施行2026年6月5日、衆議院に「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」(第221回国会衆法第11号)が提出された。
同法案は衆議院憲法審査会で6月18日に可決され、翌19日に衆議院本会議でも可決。参議院では6月23日に憲法審査会へ付託され、7月22日に同審査会で可決、7月24日の本会議でも可決された。
その後、7月31日に令和8年法律第73号として公布され、公布から3か月を経過した2026年10月31日に施行された。
参議院の公式議案審議情報と衆議院の審議経過情報によって、提出から両院の可決、公布までの経過が確認できる。
2026年改正で変わった3つのポイント今回の改正は、国民投票の投票人が投票しやすい環境を整えることを目的としている。
- 開票立会人の選任要件の整備:開票区内の投票人名簿に登録された人だけでなく、その開票区の区域を含む市町村の投票人名簿に登録された人からも選任できるようになった。
- 投票立会人の選任要件の緩和:投票区の投票人名簿への登録に限定せず、国民投票の投票権を持つ人から選任できるようになった。
- FM放送による広報の追加:従来のAM放送に加え、FM放送の設備を使っても憲法改正案の広報放送ができるようになった。
特に開票立会人については、災害などで開票区の変更が必要になった場合にも対応できるよう、選任手続が整備されている。
これらは、投票・開票の公正さと実務上の対応力を高めるための変更である。
憲法改正の成立条件そのものは変更されていないここは2026年のニュースを理解するうえで、特に注意したいポイントだ。
令和8年法律第73号は、憲法改正国民投票法の一部を改正した法律であり、日本国憲法第96条の改正要件を変更したものではない。
そのため、2026年11月2日時点でも、次の基本条件は維持されている。
- 衆議院・参議院それぞれで総議員の3分の2以上の賛成が必要
- 国会発議後60日以後180日以内に国民投票を実施
- 投票権は18歳以上の日本国民
- 賛成票が投票総数の過半数を超えることが必要
- 国民の承認後、天皇が国民の名で公布する
つまり、2026年の法改正によって投票や開票の実務は改善されたものの、国会発議から国民投票、公布に至る基本的な流れは変わっていない。
2026年11月時点の憲法審査会の動向2026年は、衆議院憲法審査会でも憲法や国民投票制度に関する議論が続いている。
第221回国会では、緊急事態条項、憲法9条、合区や地方公共団体に関する論点などが取り上げられた。6月には国民投票法の改正案も審査され、7月に成立している。
加えて、第222回国会では、10月22日にスイス・ハンガリー・イタリアの憲法及び国民投票制度に関する調査報告を踏まえた討議が行われた。
続く10月29日の憲法審査会では、国民投票広報協議会に関する諸規程について、衆議院法制局から説明を受けた後、討議が行われた。
これらは、憲法改正をめぐる制度や運用についての議論であり、憲法改正原案そのものが国会で発議されたことを意味するものではない。
今後も残る国民投票の公平性という課題2026年の制度改正によって投票環境は改善されたが、国民投票を公平に実施するための課題がすべて解決したわけではない。
衆議院憲法審査会事務局が2026年6月に公表した参考資料では、国民投票運動に関する広告放送やインターネット有料広告の制限、運動資金に関する規制、インターネットの適正な利用を確保するための方策などが検討課題として整理されている。
憲法改正は、通常の政策選択よりも長期的な影響が大きい。だからこそ、賛成・反対の双方が公平に情報を発信できる環境や、有権者が情報の出所を確かめられる仕組みが重要になる。
2026年の改正は、国民投票を実施するための実務基盤を整える一歩であり、今後は情報提供の公平性や運動の透明性についても議論が続くことになる。
【憲法改正の流れ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:憲法改正は国会だけで決められる?
A1:いいえ。日本国憲法第96条により、衆議院と参議院それぞれで総議員の3分の2以上の賛成を得て国会が発議した後、国民投票で過半数の賛成を得る必要がある。国会の可決だけでは憲法改正は成立しない。
Q2:憲法改正の国民投票は発議から何日後に行われる?
A2:憲法改正国民投票法第2条により、国会発議の日から起算して60日以後180日以内に行われる。具体的な投票日は、この期間内で国会の議決によって決定される。
Q3:憲法改正の国民投票は何歳から参加できる?
A3:18歳以上の日本国民が投票できる。国民投票法第3条に規定されている。
Q4:国民投票で過半数の賛成とは、有権者全体の過半数という意味?
A4:違う。賛成票と反対票を合計した投票総数の過半数を意味する。白票などの無効票は分母に含まれず、有権者全体の過半数の賛成が必要という制度ではない。また、法律上の最低投票率要件も設けられていない。
Q5:憲法改正の公布は誰が行う?
A5:国民投票で承認された後、天皇が国民の名で公布する。これは日本国憲法第96条第2項に定められた国事行為であり、天皇が改正の是非を判断するという意味ではない。
まとめ:【プロの結論】憲法改正は国会発議と国民投票の両方が成立の鍵
憲法改正の流れを正確に理解するためには、国会での審議と国民投票を分けて考えることが大切だ。
衆議院憲法審査会や参議院憲法審査会での議論、憲法改正原案の提出、各議院の総議員の3分の2以上の賛成は、国会発議に至るまでの段階である。
その後、国会法第68条の5に基づいて発議が成立し、発議から60日以後180日以内に国民投票が行われる。18歳以上の日本国民による投票で賛成票が過半数を超えれば、国民の承認を得たことになる。最後に天皇が国民の名で公布することで、憲法改正の手続が完了する。
2026年には令和8年法律第73号が施行され、投票立会人や開票立会人の選任、FM放送による広報などが改善された。しかし、憲法改正の根幹となる3分の2以上の国会発議要件や国民投票の過半数要件は変わっていない。
憲法改正に関するニュースを読む際には、次の4点を確認すると、議論がどこまで進んでいるのかを見誤りにくい。
- 原案提出:憲法改正原案が提出された段階なのか。
- 国会発議:衆議院・参議院の両方で必要な3分の2以上の賛成を得たのか。
- 国民投票:国民による投票が実施され、賛成票が過半数を超えたのか。
- 公布:国民の承認を経て、天皇による公布まで完了したのか。
憲法改正は、国会の政治判断だけで完結する制度ではない。国会による発議と国民による承認という二つの関門を設けていることこそ、日本の憲法改正手続の本質である。
2026年以降の動向を追う際も、制度改正の成立と憲法そのものの改正を混同せず、どの段階の手続が進んでいるのかを確認することが重要だ。